拝啓 なまえ
元気か?前にお前に手紙をもらったときから、一年以上が経った。なかなか返事が書けなくて済まない。俺も思いの外、忙しくてな。何せ日本のテレビや雑誌までが取材に来るもんだからな。知らない所で俺は有名になってたらしい。これは伊東さんのお陰か。
平助、しっかりやってるか。なまえからいろいろ聞いてるが、間違った方向に進んでなくて何よりだ。頑張れよ。たまには遊べ。
斎藤、お前は俺との約束を守ってくれてるな。助かる。お前は唯一の一人前だからな。それを心に命じておけ。
原田、女遊びはほどほどにしとけよ。それからなまえには手を出すなよ。パティシエとしてはしっかり働いてもらって助かる。任せたぞ。
総司、仕事しろ。

最後に、なまえ。
本日17時、初めて会った場所にて待つ。

土方歳三



「土方さん……!オレの為に!」
「ねぇひどくない。僕へのメッセージ、5文字なんだけど」
「俺…そんなに遊んでるイメージあんのか…彼女いねえのに」
「な、何故…俺には勿体無いお言葉…」
「ね、ねえ!」
皆が私を見る。私は何度も手紙に視線を落とした。確かに、手紙の消印は今日。日付指定されているから間違いない。手紙に書いてある、私宛のメッセージの意味がよくわからない。
「17時って…今日の?」
「えっ、土方さん今日帰ってくるの!?」
「しかも17時って言ったら…あと15分もねぇぜ」
初めて会った場所、あの歩道橋まで、走れば10分くらいだ。
私はすぐさま近くにあったコートを掴んだ。そのまま玄関に行き、ブーツに足を突っ込んで地面を蹴った。ドアを開くと吹きこんでくる風で顔が痛かったけど、なんてことない。
土方さんに、会える。
「おっ、おいなまえ!」
みんなの叫び声が聞こえたけど、ごめんなさい、今はそれどころじゃないや。



久々の日本。予定より半年早く帰国できたことにほっとする。変わらない歩道橋からの景色。
あいつらは何て言うだろうか。最早手紙を書いた意味はあまり無いが。総司は俺が帰ってきたとなると嫌そうな顔をするだろうな。しかし俺は楽しみだ。なまえと平助をこれからどうやってこきつかおうか。ほくそ笑みを浮かべたその時、後ろからドンッと強い衝撃を感じた。
「って…」
少し下を見ると、久しぶりに見た変わらないボブヘアーが揺れた。顔は俺の体にぴったりとくっついていて見えない。小さかった身長も伸びてなさそうだ。そのまま、腰に手を回されてぎゅうと抱き締められる。
「変わらねぇ、な」
「土方さん!!」
一層強くむぎゅうと腹を締め付けられて、うぐっと声が出る。なまえだった。
「わかったから、離してくれ」
「嫌です」
「どうしてだ」
「……だって、土方さんまたどっか行っちゃう」
潤んだ瞳には、俺が写る。そんな顔を見て、ふっと笑って。なまえの唇にそっと自分のそれを重ねた。ちゅ、と音がする。そのまま、ぺろりと唇を舐めた。
「帰るぞ」
にやりと笑い、なまえの涙で濡れた綺麗な手を握る。真っ赤になってぼたぼた涙を流すなまえからは、ふわりとダージリンの香りが漂う。
こりゃあ今日もまた、涙味のミルクティーになりそうだなと思いながら、その場を後にした。



***end***

ご愛読ありがとうございました!

111001~120125 詠理