「なまえちゃーん、次はタルトー!無くなった」
「なまえ、手が疎かになっている」
「なまえー、クランベリーソース尽きた!俺作れねぇからよろしく頼む!」
「なまえ、紅茶のことなんだが…」
「はいはいはい!あのね、なまえは1人しかいないんです!だからちょっと待って!」
土方さんがいなくなって、みんな一人あたりの仕事がどっさりと増えた。私達が走り回る一方で、伊東さんの粋な?計らいによりお店が雑誌から取材を受けたり、テレビで紹介されたりと、ますます忙しくなるばかりである。
「土方さんも伊東さんも勝手だよねえ。僕らばっかり働かされてさ」
「いや、総司はまだましだろー?ホール出て女性客に微笑んでるだけ…うおおおお痛ってえええ!ハゲる!!」
「平助くん早く働きなよ」
平助くんが涙目で沖田さんの悪態をつくのを尻目に、私は作業を続ける。
「土方さん、早く帰ってくるといいなあ」
私の独り言は聞こえていたみたいで、皆は私を一斉に見た。
「2年なんてすぐだぜ」
原田さんが笑った。もっと、たくさん勉強して、頑張って、一流のパティシエになるんだ。
「目指せ銀座出店!」
「おっ、いいなそれ!頑張ろう!」
私の雄叫びに、平助くんがが鼻にクリームをつけたまま相槌を打った。



拝啓 土方さん

お元気ですか?
最近、お店が大繁盛していてとても忙しいです。眠いです。パティシエってこんなにしんどいと思いませんでした!
私は途中まで専門学校に通っていたけど、お店が忙しくてやめました。それに、お店にいるほうが緊張感が出るし、力がつくと思って。
平助くんも、大分落ち着いてきました。普段は相変わらずだけど、ケーキを作ってるときは別人です。飴でうさぎさんとかくまさんとか作ってる姿が可愛いです。
そちらはどうですか。フランス語、難しいですね。私も勉強しようとしたけどやめました。土方さんならすらすら話せるんだろうなってちょっと悲しくなりました。
私に初めて会った日、声をかけて、紅茶を淹れてくださって、ありがとうございました。でないと私のやりたいことは一生見つからなかったかもしれない。ダージリンティー、今度は塩辛くないやつが飲みたいです(塩辛くしたのは私だけど…)。早く土方さんに帰ってきてほしいです。
平助くんと話してたんですけど、銀座出店する前にはちゃんと土方さんも戻ってきてくださいね<3
お返事待ってます。

みょうじなまえ



「なんだよ銀座って……」
手紙に同封されていた写真には間抜け面の平助と、ピースをしてにかりと笑うなまえ。俺がいなくても楽しそうにしてやがんな。…いや、俺がいないからか?そんなことを考えて、空を見上げた。たかが2年、まだ2年か。
俺は立ち止まらねぇ。店の為、近藤さんの為、あいつらの為に。


(輝けよ、かえるまで)