ヘッド×サカナちゃん



「今日は外へ出かけようか。」


と、気まぐれな彼の一言であたしはこんなにも簡単に閉鎖された世界から自由を手に入れる。それでも繋いだ手は冷たい鎖の代わり、無機質なそれよりも曖昧にあたしを繋ぐくせに決して離れることを許さない指先はもしかしたら冷たい鎖よりもずっとずっと頑丈なのかもしれない。休日の真昼間に手を繋いで歩く街並み、至って普通に見えるあたし達は日常の中ではとても異質。まるで本物の恋人同士みたいね、言葉に映しかけた想いはひっそりと胸の中。だってそんなことを言ったならきっと、貴方は困ったように笑うんでしょう。


「たまにはいいね、こんな時間も。」
「ええ、嫌いじゃないわ。」


薄暗い鳥籠の中での生活に慣れてしまったあたしに、少し太陽の光は眩しすぎるけれど。それでも、何時もよりはっきりとこの目に刻める貴方の笑顔が何だかとても嬉しくて、握る指先に少しだけ力を込めた理由に貴方が気付かないで居て欲しい。(だって、少し恥ずかしいもの。)雑踏を抜けた先、彼があたしを連れて行くのは海の見える小さな丘。


「今なら君はこの広い海さえも泳いでしまって、あの小さな水槽から抜け出せることができるのにね。」
「広い世界で泳ぐサカナだけが幸せであるとは限らないのよ。」


離れた指先はそれでも当たり前のようにあたしを繋ぐ。本当はきっとあたしは貴方自身に繋がれて居たから、冷たい鎖も、甘い指先も、きっと形だけの拘束。もしもあたしがこの海を泳いで鳥籠から抜け出したとしても、あたしを繋ぐ貴方は決してあたしを解放なんてしてくれないんでしょう(、貴方はとても狡いひとだから。)だからそんな馬鹿げたことはしないの。貴方の傍で、貴方の隣で、形だけでも、目に見えないものでも、貴方の全てであたしを繋いで居て欲しいのよ。きっと、貴方が思っているよりもずっとあたしは貴方に恋をしているから。


「好き。」
「うん。」
「好き、好き。」
「うん、」
「好き好きすき、」
「わか、」
「あたし、貴方がすき。」


わかったから、と少し照れくさそうに笑う貴方の顔がどうしようもなく好きで。もうそろそろ帰ろうかともう一度あたしを繋いだ指先がさっきよりも少し温かくなったような気がしたから。今度は強く強くその指先を握り返した。ほんの少しでも構わない、あたしの想いが貴方に溶けてくれたならいいのに。





110328
なんだかあんまり甘くなくてごめんなさい(´・ω・`)

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