犬×千種 肌寒い二酸化炭素の中でふたり、身を寄せ合って眠るのがすきだった。ふたりの体温が溶け合ってしまうようで、鼓動すらも混ざり合う感覚はまるで俺らがひとつの生き物であるかのような錯覚さえ覚えさせたから。 「な、柿ピー。」 「何。」 「すき。」 「しってる。」 抱きしめると拙く抱きしめかえす細い腕がすきだ。すこし照れくさそうな声も、すこし早くなった鼓動も。(千種、ちくさ、。)腕の中のお前はこんなにもちっこい。千種、俺はほんとはお前さえいてくれたらそれでよかったんだ。(、ごめんな。) 「犬、」 「おう。」 「すき、」 「ん、知ってんよ。」 まるで泣き出しそうな二酸化炭素。俺の腕ん中、小さく丸まるお前は声を殺して泣いてた。やっぱり俺らは別々の生きもんだ、ひとつになんてなれやしない。(ちくさ、) 「犬、」 「なん、」 「、泣かないで。」 (泣いてなんか、)(だけど触れた頬に伝う冷たさは確かに、。) なあ、俺はもしかしてこうしていつも泣いていたの。お前と俺の涙が溶け合った海の真ん中、俺たちはやっぱり別々の生きもん。でも、それでも俺はお前がすきです。だいすきなんです。 「ちくさ、すき、おれおまえがすきらよ、」 「知ってるよ、犬。」 神様おねがい千種を俺にください。(ひとつになれなくても良いから、ねえ、ねえ、)俺の腕ん中、俺を呼ぶ優しい声よりも優しい声を俺は知っていた。そうでしょうだってもうここにはいない彼を呼ぶお前の声が、俺のいちばんだいすきな、 神様、あの子がほしい (叶わないな、)(敵わない。) title...深爪 110220 |