獄寺×山本



ぎいぎいと悲鳴をあげる自転車が冷え切った夜の雑踏を走り抜ける。俺がこぐよとへらり笑ったこいつを後ろに乗せたのは俺の男としての精一杯の意地だった。(いつもいつもお前にばっかり良い格好なんかさせねぇ。)思いとは裏腹に、のろのろとしたスピードで風をきる自転車は傍から見たらひどく不恰好だったかもしれない。


「獄寺、俺かわるよ。」


どこか楽しそうなその声を無視して、自転車は駆ける。きっと行き先なんて誰にも、俺自身にだってわからないけど。きっとこのままふたり、どこまでだって行けるような気がした。本当はそんなことありえねぇんだけど。それでも、お前とならどこまでだって一緒に行きたかったんだ。


「山本っ、好きだ!」


そりゃもう馬鹿みたいに、こんな馬鹿げたことすら考えてしまうくらいに。夜は、優しい。ありえない筈の永遠だって今くらいは信じられるから。なあ、山本。ほんとにこのまま逃げちまおうか、どこまでもふたりで。口にできないまるで青臭い台詞すらも、夜はちゃんと優しく隠してくれた。


「俺もごくでらがすき!」


触れ合う体温がたまらなく好きだ。なあ、本当にこのまま溶けちまいたいよ。ぎいぎいと自転車は悲鳴をあげる。そんな俺を馬鹿にするみたいに、だけどどこまでも優しい夜の中で。





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