臨也×静雄



「シズちゃんってさあ、俺のこと好きでしょ。」


シズちゃんは何も言わない。ただ怒りとか嫌悪とかそういったものをぜーんぶぐちゃぐちゃのどろどろに混ぜ合わせたみたいな(、よく見たら少しだけ泣きそうな顔をして、)俺をじっと見据えるのだ。その真っ直ぐな瞳は俺を心底ぞくぞくとさせるくせに、同時にその両目をくり抜いてやりたい衝動に駆らせる程俺を苛立たせた。


「俺はシズちゃんが大大大大だあーいっ嫌いだけどね、でもね、」


なのに、シズちゃんは多分、いや絶対に俺のことを好きだった。別に俺の勘違いでも、自意識過剰でも何でもない。シズちゃんがそういっているのだ。別に口に出して、言葉にしているわけではない。シズちゃんの目が、いつも俺を好きだと泣いていた。ほら、今だって。


(何で俺は何で俺は何で俺、はっ。こんな野郎を、好き、なんて、ありえねぇありえねぇ絶っ対にありえねぇ。…でも、)(好きだ。)(むかつく。)


あーあ、シズちゃんは馬鹿だ。どうしようもない馬鹿だ。だから大嫌いなんだ。だからそんな目で俺を見ないでよ、吐き気がする。むかついてるのは俺の方だ、嫌い嫌い嫌い嫌い大っっっ嫌い。(でもね、)


「俺はね、人間を愛してるの。」


困っちゃうよね。


「俺としてはさあ、すごおく残念なお知らせなんだけどね。その人間の中に、一応シズちゃんも含まれちゃってる訳ぇ。」


ほんとにほんとに困ってしまう。俺はこうして大嫌いなシズちゃんのことをこんなにも優しく抱きしめちゃったりなんかしてさ、シズちゃんも抵抗なんかしなくて。ぶっちゃけ有り得ないよね。このまま絞め殺してやりたいくらいに君のことが大嫌いなのに。


「だから、それでいいじゃん。」


そんな風に思えてしまう俺を俺は大嫌いで、だけどそんな俺もきっとどうしようもないくらいに人間だから。だから、同時にそんな俺を俺は大好きで、君のことをこんなにも愛してしまっているんだ。





110117

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