犬×千種



俺らはずっと三人ぽっちで、それが俺らの世界で、それで、それだけでよかった。骸さんと、俺と、お前。ほんとはな、世界なんて俺とお前だけでもよかったなんて言ったら多分お前は怒るから言わない。(きっとお前には骸さんが居てこその世界だろうから。)


「けん、」


微睡む声が愛しい。二人ぼっちで一つの布団にくるまって、今はここが俺らの世界。溶け合う体温も、呼吸も、泣きたくなるくらい幸福なこの時間が願わくばずっとずっと止まったままでいてほしかった。


「おはよ、柿ぴ。」
「ん、」


朝の光を吸い込んだ黒髪を撫でた。小さく洩れた言葉は意味を成さないままに空気に混ざりあってそのまま消えていく。いつも、そうだから。変わらない日々は愛しくてだけど同時に少しだけ愛(かな)しい。


「ねえ、けん、」
「ん、なんら。」


優しい指先が触れた。不意に泣きたくて、それを誤魔化すみたいに笑ったら縋るように抱きしめられた。(ああもうほんとうに泣いてしまうよ、)世界は何時だって優しいくせに、同時にとても意地悪だった。


「俺たちはさ、いま、しあわせなの。」


幸せだよ、当たり前じゃん。断定することなんてできやしなくて、だってそんなのただの俺のエゴだ。俺の世界は骸さんと、俺と、お前で。でもほんとはお前さえいてくれればそれはきっと世界で。(だけど、お前は?)(知んねぇ、おれには決め付ける権利もない。)


「おれは、しあーせ。」


そっか、と呟く顔は見えなかったけれど多分、。(ずるいよなあ、本当に。)なあ、なあ(、もう俺以外の世界のことなんて知らないままでいてよ。)閉じ込めた言葉は今日も俺の胸の中、ぽろりとこぼれたお前の涙で今日も世界は泣いている。





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101124
骸さんは牢獄の中

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