承太郎×花京院
!夏目漱石パロ




「承太郎、僕はもう死ぬよ。」


花京院はまるでその名前に相応しく、花が舞うように笑った。何だ、突然。鼻で笑ってやろうにもそれができなかったのは多分、どこかで花京院がもうすぐ死んでしまうという事を理解していたからなんだろう。本当に死ぬのかと聞くと、死ぬんだよと笑っていた。


「死んだら、僕を埋めて欲しい。大きな真珠貝で穴を掘って。それから星の破片を墓標に、墓の傍で待っていて欲しいんだ。必ずまた、逢いにくるから。」


何時、何時逢いにきてくれるのか。尋ねるとただ花京院は困った顔をして、俺の髪を撫でた。


「百年。君は待っていてくれるかい。」


花京院が何処までも哀しい顔で笑うもんだから必要以上に深く頷いた。待つとも。尤も花京院の答えが何であろうと待つつもりだったのだけれど。良かった、長い睫毛を伏せて微笑んだ花京院の涙が床に落ちた。もう、死んでいた。


そうして言われた通り、俺は花京院を真珠貝で掘った深い深い穴の中へと埋めた。月を反射する真珠貝もついでに穴の中へと落とした。星の破片を最後に、俺はその隣へと腰掛けた。


(花京院。)


何だ、今更。頬を伝うもの。お前の体温にもよく似ている。気付かない、振りをした。


日は出て、そして落ちていく。何度も、何度も。もう数えることさえも忘れてしまったくらいに何度も何度も繰り返し。それでもまだ百年は来ない。星の破片が煌めいていた。俺はもしかしたら花京院に騙されたのではないだろうか。


「承太郎。」


(懐かしい、声。)
振り向くと石の下からすらりと自分の方へと伸びる茎、その頂きにはあいつによく似た真っ白な百合。触れてみるとまるであの頃のように幸福な気持ちに包まれて、露の滴る花びらへと口づけた。


「お前、本当に逢いに来てくれたんだな。」


百年はもう来ていたのだと、この時はじめて気が付いた。





100915
夏目漱石好きです。

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