バス停のベンチ。


バス停のベンチ。今まで色んな人を座らせてきた風格のあるコイツは歴史を感じさせて、ギシリギシリと私が動く度に音を立てる。バス停のベンチ。剥がれかけの青塗装で飾られたプラスチックは夜の風に冷やされ、夏のほてった素肌にはひんやり心地いい。バス停のベンチ。ひとりで座るには寝転びでもしない限りとても大きくて、私が真ん中で両脇に一人づつがやっぱり安心。バス停のベンチ。この場所とこの位置は私達三人の指定席だ。

「レンー、今何分ー?」

「あー…ん、17分」

「17かぁ、あと10分もあんね」

「しょうがねぇだろ、もう夜の7時だからバスもすくねぇんだよ」

私の通う学校の指定バス。進学校として名高いから部活はそこまでさかんじゃなくて、夜に利用する生徒が少ないせいで当然この時間枠のバス数も一時間に2本と少ない。

「ごめんね、リンちゃんレンくん。先帰っててもよかったんだよ…?」

私を挟んで行われる双子の会話には申し訳なさしかつのらない。だって、彼女達は私を待っていてくれたせいで遅くなってしまったんだもの。ああ、授業中うっかり居眠りなんかしなければよかった。そしたら私は廊下に立たされるような古風な恥をかかずにすんだろうし、放課後呼び出されて説教と課題をこってりいただかなかっただろう。そしてなにより、この二人をこんなに待たせずにすんだはずなのだ。そもそも昨日美容にもダメだと分かりつつも夜更かししちゃった自分が悪い。それから奥さんと喧嘩したからってイライラしてた先生も悪い。(説教されてる時「お前のせいで謝る時間が遅れただろ」なんて言われて同情して話し込んでしまったのはちょっぴり内緒だ)。

「違うの!違うのミクちゃん!別にミクちゃんを責めたわけじゃなくてねっ!?」

「っ!そうそう!ミクさんが悪いんじゃなくて!」

「そうだよ、れ、レンが悪いんだよ!バスの来る回数増やせないレンが!」

「はぁっ!?何言ってんだよっ!それを言うならお前増やしてみせろよ!」

「できないわよ!」

「俺だってだ!」

二人はほんとにいつも元気だ。思わず悪いと思いながらも笑みが浮かんでしまうじゃないか。とりあえず許してくれてと、待っててくれてのふたつをこめて「ありがとう」と零す。それだけで破顔してくれる二人はほんとにかわいい。この二人はほんとに昔から私を好いていてくれる。いい子達。かわいい子達。だからもう一回「ありがとう」を私も笑顔で言った。すると今度は照れてしまったのか二人そろってそっぽ向いてしまう。ありゃりゃ。だんまりになっちゃった。でもそろりそろりと伸びる左右の手がそっと私の手を握るからちっとも寂しくない。夏だし、手汗ひどいし、それでも不快じゃないのはこれだけで私以上に顔を真っ赤にさせてくれている二人だから。そっぽ向いての照れかくし。ぜんぜん寂しくない。むしろ嬉しい。ふわふわしちゃう。そんなことしてるとふと目に入る光。

「あ、バス…来たみたいだよ?」

遠くに見えるヘッドライト。バス。光がどんどん近づいて眩しさに目を細める。バスだよ、二人とも、と声をかければ何故だか二人そろって首をふるのだ。何故だか何故でしょう?首かしげ。「どうしたの?」って思わず聞いてしまえば握られてる手にさらに力がこもった。



(「あの、ね…次のに乗らない?」「もうちょいこのままがいい…です」)
(乗るんですか?の運転手さんに黙って首振る私がいた。)


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