少女Mの憂鬱。


ほたり。落ちる音。重力の圧に随い落下する身体。手が無意識に天を探し、何かを迎え入れるような形になる。しかしその手の中に堕ちてくるモノは何もなく、落ちているのは私という物。視界をわずかにかすめる己の髪が、落ちている事実を淡々と述べている。ほうら、ぼちゃん。宇宙に落ちた。異物は徐々に水面へと浮上するが、服が水を含み我が身を少し沈める。頭から足先まで水に浸された身体。抱きしめられる感覚。水が私を包み込む。ふと過ぎるのは先日突然私を抱きしめた兄の顔。私を抱きしめながらも何を考えているのかわからない人間に比べて水は綺麗だ。見た目でも、動きでも。辺りの静けさ。異物投下に対する拒絶の波も次第におさまり、私もプールの一部になる。

「―――気、すんだ?」

プールサイドの人影がうごめいて、私に視線を向けた。見上げた君の後ろの大きな月が輪郭を浮きたせ、髪を反射させる。嗚呼、綺麗。心で呟く。闇夜に浮かぶ君は今まで見てきたどんな君よりも美しく、水に近かった。君をよく見ようと、パシャリ、水音を立て身体を起こせば、ただ静かな水面のように表情を変えずこちらを見続ける君。私の本能が身体を制御する。

「ウザイ」

私という異物から水面へ発せられた言葉にグラリ。揺れる君の顔。水のような綺麗な顔に、波打つ不機嫌。(この波は私を拒絶し続けるだろうか。)見上げる君の顔。しばらくすると、はぁ…。吐き出された息に戻る顔。

「――帰るよ」

水みたいに私を受け入れるものだから勝手に口が動いた。

「レン、私を抱いてみてはくれないかな」

(愛を知らない少女の話。)
(少年の瞳が月みたいに大きく揺れた。)


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