気まぐれなその猫はただただ俺を小馬鹿にしたようによく鼻にかけて笑う。そのくせつんけんしてすぐ何処かへ行ったかと思えばいつのまにか隣に戻って来て、かまえや、うたえや、大合唱。コイツを一言で言い表すなら確実に我が儘、それかやっぱ猫。うっとおしい割に憎めなくて、ふてぶてしいくせに愛される。

「ほんとにお前は、つくづく猫みたいなやつだな」

先程までは買ってきた今人気だと言われる男性アイドルが表紙のファッション誌を読んでいたはずなのにいつのまにか隣でクッションを抱えているオレンジ髪を見る。昼過ぎの日光が髪をより鮮やかにみせて僅かにまぶしい。意思の強いクリグリとした目は今、なんだこいつと言うかの如くジロリとねたましげに俺をみつめ、目を合わせるとすぐ逸らされた。

「晴矢はつくづく馬鹿ね」

耳によく留まる声帯を震わせて、持ち前の負けず嫌い故か杏はそう俺に返す。「お前の方が馬鹿だろう」と気分じゃないけれど建前上いつも通りのようにそう返し、また訪れるは沈黙。いつものように馬鹿に馬鹿は返ってこなかった。それはきっとこの陽射しが穏やかなせいなのと、やることを無くした喪失感のせいなのだと思う。宇宙人なんてふざけた名義でしばらく生きてきたから、今更訪れた人間生活はまだ上手く型にはまりきれてない。

「…今頃はドリブル練習、ね」

隣から零れ出たような独り言。わお、デジャヴュ。

「奇遇だな、同じこと考えてた」

「最悪」

杏は眉を忌ま忌ましく吊り上げてまたジロリと俺を見た。しょうがねぇじゃねぇか。俺らはずっと同じだったんだから。何日、何ヶ月なんて月日じゃない。あのお方が決めてからずっと、ずっと俺らは宇宙人だったんだ。今となっては宇宙人の毎日繰り返される特訓の日々こそが俺らの普通に成り代わって堂々と座っている。時間いっぱい特訓して、特訓して、へばって飯食って寝る。自由の代わりに充実した毎日を送ってきたんだ。今更の自由なんかただの退屈。なのにやりたい事は、今はただナイフみたいに傷をえぐるだけの遊戯と化してる。退屈で、憂鬱。また二人そろってだんまりしながら目を閉じていたら、いつの間にか杏はいくなっていた。退屈している人間を一人にするなんて薄情な猫だ。ああ、いや、猫だから出ていったのか。チクチクと動く秒針をぼんやり見ながらテレビでもつけるか、なんて思ったがなんだかめんどくなって結局止めた。

「退屈で死んでしまえそうだ」

暇すぎてため息まじりに呟けば、また知らない間に帰ってきてた杏が「じゃあ死ねば」と言うから無視しておいた。いやそれよりも“また帰ってきたのか”という思いでいっぱいで返せなかっただけかもしない。学習能力のない猫だ。暇だから出て行ったくせに暇なところに帰ってきたって意味ねぇじゃねぇか。馬鹿にするようなつもりで顔をみやればなぜか「感謝してよね」の一声が降ってきた。

「暇だからトランプ取ってきてあげたのよ」

手に持つカードを手際よくキリ、猫は得意げにニヤリと笑う。わが家の猫はどうやらそうとう主人思いらしくて、思わず口が吊り上がる上がるを感じながら「おい、猫」と一言。

「ニャァ、って鳴いてみせろよ」

少し顔を近づけて挑発気に言ってやれば「ばか」の鳴き声とともに鼻を噛まれた。





晴矢と杏






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