相変わらず人間の適応能力の高さには感服する。いつのまにか当たり前が失せ、今度はそれが当たり前に成り代わり当たり前を築く。奴が居なくなったこのお日さま園も同等に、その事実を緩やかに受け入れだしていた。居なくなりもしたこの数日こそは皿を一人分多く出していたり、風呂の順番で奴の名前を読んだりと奴の面影を残してはいるものの、あと数日もすればそんな事実さえ跡形もなく受け入れられるのだろう。そしてそれは私も同じこと。いつしか奴が隣に居ないことこそが普通のように振る舞い、全てが終わり奴が帰って来るころにはきっとその感覚を逆に不自然に感じさえするのだろう。人間とはそんなものだ。受け入れるのは難しくも、受け流すというのは実にたやすい。それだというに、去って行った奴は違った。テレビをつければ何度も報道される外国での彼らの活躍を遠目に見ながら私は、なぜ、なぜ、なぜ、といつも自問自答を繰り返す。なぜ、奴はあえて難しい道を選び受け入れた。

「…元気にしてたかい?」

携帯電話という機械にこもる声でそう問いかける奴は、奴であって奴ではなく、私の知る者とはかけ離れている。私は、知らない。過去を容易く受け入れ、それを糧に前へ進もうとするお前のことなんか。なぜ、笑う。なぜ、動ける。なぜ、おいていける。

「…電話をしてくるなと言ったはずだ」

未だもだもだと蟠りを抱えた私たちを置いて先へ進む奴はテレビ越しに何故かまぶしく、未だまともに観戦をしたことがない。いつも「応援きてね」と言うが、現実でみるなんてもってのほかである。世界へいった奴は受け入れて先へ進み、サッカーを楽しむことを取り戻している。受け入れるということは、自分が変わるということだ。だが受け流してしまえば、自分は変わらずにいられる。楽が大好きな傲慢な人間は後者を選択する可能性が極めて高いというのに、ああ、ほんとに何故。

「君の声が聞きたかったんだ」

「国際電話をなめているのか」

いつも通りのそんなやり取り



ヒロトと玲名






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