まず俺達の世界っていうのはお日さま園の事だけで、父さんの言う世界ってのは漠然すぎてた。彼女に至っては、下手したら世界なんて父さんだけの事を指すのかもしれない。だから、俺達はいろいろ知らずにいた。知らない方が幸せかどうかなんて、それすら知らない俺達にとって酷く漫画みたいなことで、リアルじゃなかった。俺にとっての世界はやっぱりお日さま園で、リアルはその世界内でみえる範囲のこと。ただそれだけ。俺には俺の知る世界がある、それだけで父さんのいう世界ってものは酷くどうでも良く思えてしまうのだ。

「…ねぇ、ウルビダ。父さんが何故俺たちをこんな目に合わせたか知ってるかい?」

とある昼過ぎ。冗談めかしたような口調でわざとそう問えば、隣に立つ君は青い切れ長の瞳を高く吊り上げて俺を見た。嫌いだ、嫌いだ、そう散々俺を罵る彼女が俺はすごく好きだった。性癖的な意味ではなく、個人として俺を見てくれてる言葉を吐く彼女が好きってこと。吉良じゃない、基山。彼女の嫌いは、基山宛て。父さんが俺に吉良の面影を見ているから愛してくれてる事実は確かに認知してるし、俺自身それでもよかった。だって吉良じゃなく基山を見てくれる彼女がいたから、だから俺は俺と吉良を演じれた。ああ、こうしてみると俺は随分彼女のおかげで自我を保ってきたんじゃなかろうか。有り難い、実にありがとう。俺への睨みをきかせたままの彼女はそんな俺をみて、今日も今日とて当てつけのように舌打ちをしてから忌ま忌まし気に口を開く。なんだかんだ言って彼女は優しい、ほんとに嫌いなら無視する選択だって彼女には許されているのにそれを選ばずいつも俺を選んでいてくれていた。

「…そんなこと貴様が一番よく知っているだろう」

睨みは解かずウルビダはそう言う。「ああ、たしかにそのとうりだね」なんて軽々しく口にして、「死んでしまえ」とそっぽ向かれる。彼女の隠すことない俺への嫌悪が酷く心地いい。俺がわざと彼女を怒らせてるなんて、きっと想像さえしてないんだろう。ああ、でも想像してくれてかまわないんだけどなあ。少しでも俺を君が思ってくれたらなんて恋する乙女みたいだ、爆笑。いやいやまあ、それよりも今俺がウルビダと話したかったのは別に「死ね」だのそんなのを言われるがためではなく、

「父さんのやりたいことが復讐じゃなかったら、どうする?」

なんていう茶番劇。ウルビダってば結構単純で、こうふくみを少し入れて言うだけですぐそっぽ向きを解除してくれる。目が合うから微笑んでおいた。相手の眉は著しく歪んだ。

「…っ、貴様の言いたい事がわからない」

質問で返せば必ず嫌いな相手でも会話が成り立つていうデメリットに彼女が無理しても立ち入ってくるなんて父さんの力は偉大、偉大。やっぱり彼女の核心部は父さんなんだろう。

「そのまんまの意味なんだけど」

「ふざけているのか。復讐以外に何がある、父様はいつだって奴のことを思っていらっしゃるだろうが」

「…俺達、いや最初に向かわされたレーゼ達はなんて言って世界に挨拶したか覚えてる?」

ますます歪みが加わる彼女の眉の真ん中あたりを見つめながら、「世界征服だよ」笑いながら零してみた。

「もし、父さんが本当は世界征服しようとして、いやもしかしたら世界を壊そうとして俺達まで死んでしまうのだとしたら君はどうするんだい?ウルビダ」

答えはまぁ、決まっているだろう。

「父様の指示に従うまでだ」

つまりこれが俺達なのだ。知る世界のみで生きてきた俺達にとって世界は世界であり世界でありながら分割され、優愚で分けられる。信じてきたものを捩曲げることなどそうたやすくもなく、世界を知るまで彼女の世界はきっと父さんのまま。世界の範囲が僅かながら広がり始めた俺と小さな世界で留まる彼女が対立しそうなのは手にとるように見える事実だけれど、その前に彼女が世界を広げてはくれまいか。と無い物ねだりで目を閉じてその先を想像。だめだこりゃ、頭の中は真っ白だった。


ウルビダとグラン






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