「例えば、だ」

「…はい」

「例えば今ここにあるこの小箱…この中が爆薬だとしたら」

クララならどうする?色素のうすい髪を僅かになびかせながら彼は唐突に私にそう問うた。小箱、というのは彼がもつ淡い青色のもので間違いないだろう。大きさは掌から少しはみ出る程度、もし彼の言うように中身が爆薬だとしたら私を含め周りの物も、もちろん彼さえ一たまりも跡形も無くぶっ飛ぶだろう。しかしこれはもしもの仮定であり、彼も爆薬ならどうする?と言っているのだから爆薬である可能性は極めて低い。それに付け加え彼は熱いのが得意ではない。死ぬなら爆薬などといった劫火に呑まれることなく、どちらかといえば凍死したい派であることはどんな赤の他人であろうと3日ほど彼と過ごせば誰でも断言できる事実だ。やはり爆薬ではないのだろう。しかし、分からないと言えば何故彼はそんな仮定を問いとして口に出したのかという事実。また、その相手が私であった理由。一体何を考えているというのか私にはてんで見当がつかない。だけども、私自身としてはチームのキャプテンであり、個人的なものも含め尊敬と胸の焦がれさえ覚える彼に喋りかけられたという事実は柄にもなく飛び上がり、跳ね回れるほど嬉しく甘美なことであるのだから、その質問に答えよと身体が勝手に行動を起こすというのはたわいもないことだ。今だじっと私の答えを待つ彼を少し可愛くまだ見ていたく感じながらも、やはり待たせるというのは嫌いな性分故口を開く。

「…その、どうするかが“逃げる”か“否”かの問いならば、私は逃げません。と、お答えします」

「理由は?」

「本能です」

間髪入れず答えた私の答えは、彼の回答欄には存在していなかったのか面を喰らったような顔を彼は私に向ける。彼を残して逃げない自己保身を放り出した私の考えを本能と言わずなんと呼ぼうか。嗚呼、でも普通は逆なのか。本能は自己を守ろうとする、のか。だけれどもそれは酷くどうでもいい事のように思える。鶏が先か卵が先か、子供のたわいない意味のない答え探しだ。本能など個別のもの。本能とは何ぞ?の問いへの科学的答えなど個人から見れば結局意味がない。実に下らないものが世の中研究され続けているものだ。しかしそんな馬鹿みたいな世の中を何故だか皆嫌いになり切れないあたり自分も大概大馬鹿野郎だ。どうでもいいことで満ちた世界に意味のないことを見つけ続け、それが人の生き様であろうというのか。そんな時ふと気がついた事実は彼の問いにさえも意味などないのではないかという実に馬鹿馬鹿しい現実。そうか、これが世の中か。何故か酷くしっくりきた。

「…何故そのような質問を?」

きっとこの問いにさえ意味はない。聞いても聞かなくてもきっとこの先起きる差は0.1ミリにも満たない可能性だってあるし、いずれは風化する現実であるのだ。

「意味などない…この箱と同じことだ」

彼自身も意味などないことをとうの昔から理解してしまっていたのか、苦笑しながらあけるその箱の中身はやはり意味のない空っぽだった。


風介とクララ






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