彼女はよく自分が嫌いだと反吐のように吐き捨てる。それと同時に俺のことも嫌いだと吐き捨てるけど、まあそれはどうでもいいこと。彼女は、嫌い。嫌い。だけが感情であるかのようさえ振る舞い、事あるごとに見るもの、触れるもの、手に入れたものの自分の気に入らないところをみつけだそうとするからたままったもんじゃない。きっと、だめなところ探し顕正だなんて馬鹿げた大会でもあれば彼女は結構いいところまでいくんじゃないだろうか。そしてその見つけ出す対象の中で断トツに欠点が多いのが何を隠そう、隠す必要もないけれど彼女自身であること、これこそが俺にとってどうでもいいことではないことである。俺からしてみれば彼女はみんなの憧れる多くのものを手に入れてるむしろうらやましい人材なのだけどな。このまえはそうだ、「女というだけでぶら下がるこの脂肪が気に入らない」と自分の人より豊かな胸を全世界の貧乳さんを敵にまわしながら罵倒し、あるときは「青いこの髪が気に入らない」などといって髪を切ろうとハサミを手に洗面台に乗り込んでいった。少し前にはどちらもまた少し違った理由で気に入らないと喚きたらしたばかりだというのにどうしてそうも同じ箇所から嫌いなところがぽこぽこ湧き出てくるのか。

「俺は玲名のその目、好きだよ」

今日は、この目のなんとかかんとかがどうこうで気に入らないともう俺の頭の中では忘れてしまうくらいのすごくピンポイントなことで怒っていた彼女にそうつぶやく。そんな俺のつぶやきをきちんと拾う機能を果たした彼女が2日前に嫌いだとののしった耳を心の中で褒めてあげながら、怒りからかピクリとつりあがる今日の標的を眺めた。玲名は怒っているときだけはきちんと俺と目を合わせてくれる。もしかしたら彼女は人の目をみながら人をののしるのが好きなんじゃないだろうか。もしそうだとしたら少し嫌な趣味だな。

「俺は、目だけじゃなくて玲名全部が好きだよ」

たとえ、玲名が玲名を嫌いでもね。不意打ちの発言ゆえか、俺を見返してくれる瞳が僅かに揺らぐのを見届けながらヘラリと笑顔をこぼしておいた。きっとこの方が揺らがせた瞳を見つめているより早く、彼女は彼女を取り戻して俺を怒鳴りつけてくるだろうから。玲名が嫌いな自分でずっといることで、それはきっと好きにつながってくれるんじゃないかな、っていう甘っちょろい俺の考え。予想通り俺の笑顔に憤慨した彼女の怒鳴り声が鼓膜を揺さぶり、彼女は自分が自分を嫌いなことを忘れて俺を嫌いだとののしり始めた。もしかしたら俺は彼女が彼女を嫌いであることを忘れさせるためにここに生まれたのかな、なんてメルヘンチックな想像を頭で張り巡らせながら、いつか彼女に俺の大好きな玲名を好きになってもらいたいななんて夢物語を描いた。

「君を愛してないのは、君だけだよ」



ヒロトと玲名






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -