「玲名は特殊相対性理論を知っているかい?」

夜という暗さにその青い髪を溶け込ませた彼女に問う。皆寝静まってしまった園内はひどく静かだった。それこそ世界中にだれも居ないのではないかという馬鹿みたいな錯角を覚えそうなほどに。隣に座る彼女の肩がわずかに揺れる。肩と肩がわずかに動けば触れ合える距離というのは、人の熱気なのかなんなのかすごく温かくて心地よい。一人も夜も静寂も得意じゃないけれど昔から彼女が居るのなら何も怖くなかった。

「相対性…たしか、アインシュタインのだろう」

少し遅れて帰ってきた返事。これ自体がそれを表してるみたいで少しおかしくて口が緩んだ。

「そう、アインシュタインのあれだよ。物体が高速で移動するほど、時間の流れが遅くなるっていう、あれ」

彼女は今まで空を眺めていた視線を俺に移し「それがなんだ」と小さく聞いてくる。

「うん、俺が言いたい…というかしたいのはね、双子のパラドックスさ」

君がここに残って、俺が宇宙へ旅立つ。もちろん船は高速船。地球の時間で6年間のあいだ宇宙を駆け巡ってくるんだ。うーん、光速船で3光年先の星を往復でもしてくるかな。それで帰ってきたとき、この理論が正しければ俺は君より約2歳3ヶ月若いまま帰ってくるんだ。

「そしてこれを4回繰り返す、そしたらさ俺は君より9歳は若くなれるね」

「…だからなんだ」

「簡単なことさ」

日本における男性の平均寿命は約79歳。女の人はそれに対して約86歳。

「普通に生きてたら俺は君を置いて死んじゃうね」

でも、9歳若ければ一人でなんか逝かさせずにすむ。最初は俺が死んだら君が追い掛けてくれればいいと思ったんだけど、玲名が自殺なんてなんか嫌だったからさ、俺が若くなればいいって気づいたんだよ。ふふ、我ながらなかなかの賢さじゃないだろうか。きっとノーベルさんもビックリだ。ニコニコと緩む頬をそのままに、とってこいができた得意気な犬の気持ちってこんなんなのかなとか思ってたら「馬鹿か」一刀両断されてしまった。

「お前は最後私を一人にしないために宇宙にいくそうだな」

そうだよ。

「じゃあ、お前が宇宙にいるという9年間、私はどうなる?結局一人じゃないか。それにもしその9年の間に病気になり面倒を見る奴がいなくて死んだら?最後を一人にしない方も守れないな」




ヒロトと玲名






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