「雨だ」

「雨ですね」

電話ボックスに閉じこもる。雨。雨。しきりなしにこのガラスケースを叩きつける無数の水。容赦なく降り注ぐその弾幕に逃げ惑う人をぼんやり眺めながら懐の友達にそっと触れる。ごつごつしてて、生身で持ち歩くのには少し危険なこれをいつ彼に突きつけようかと考えていたけど、今がチャンスなんじゃないだろうか。まだ定まらない思考の中指先でそれをはじいたら、キンとなった。だから、突きつけようと思った。

「風介君」

つつっ、とその相棒の先っぽで彼の背中を伝う。先端はとがっているから痛いかもしれないな、なんて他人事だから他人事みたいに考えた。さっしのいい彼だ、きっとこの物体の正体にはもう気がついたんじゃないだろうか。

「joke or serious?」

挑発めいた彼の達者な英単語が雨音を退けて耳に届く。「冗談か本気か」だなんて。

「私がいつ冗談をしたことがございましたか」

ばかばかしい。私の冗談嫌いくらい理解していてくれたものだと勝手に思っていたのに。彼がこんなにも物分りの悪いお方だなんて興醒めである。百年の恋も一辺に終わるというやつだ。…まあ、嘘ですけど。冗談みたいな茶番が馬鹿らしく嫌いな私だけど、嘘くらいはつく。「分かってる、冗談だ」だなんて今更返してくる彼に、ああ、だから冗談は嫌いなんですよ、まったく。

「それで、お前の用件はなんだ?クララ」

この切っ先を突きつけられてもまったく同様しない彼の落ち着いた声でそう問われながら、用件。ああ、用件か。雨音がすごく頭に響いて、だんだん何も考えれなくなる不思議。この電話ボックスという世界自体が酷く現実味を欠けさせていって、あれあれ、まあまあ。用件なんて、忘れてしまいそうになる。何も浮かばない頭で「貴方を殺してみたかった」だなんていえば嗤うだろうか。冗談ではないといいながら、なんて冗談じみた用件だろうと私を見下すだろうか。ああ、でももうかまわないんじゃないだろうか。私が刃物を握り、彼が刃物を突きつけられ、ガラスケースに囲われたここはもう現実からかけ離れた別世界なのだから。



風介とクララ






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