もぞりもぞりと寝返りをうった。保健室のベットは私の家のベットに比べたらぜんぜん安っぽくて、エタノール臭くて、あんまり気持ちいのいい物ではないのにこんなに愛着がわいてるのはなんでかしら。寝転がってもふもふ布団にはさまれて見ればほらほらさながらハンバーガーのお肉の気分。

「ああ!ハンバーガーのお肉。オマエは幸せものね!」

ガバリだなんて効果音をつけてもいいくらい、ルカちゃんが思わずびっくりして目を見開くくらい思いっきり起き上がって、両手を広げて。死ぬ間際の演説者?それとも舞台の大物俳優?高らかに朗らかに私は説いてみせるの。だってよ、だって。私はハンバーガーのお肉になりたいわ。

「はさまれているだけの実に簡単なお仕事!人生謳歌!私も布団に挟まれるだけの人生を送りたいの!」

考えただけで楽しおいしい。いっそお肉に産まれればよかったんじゃないかなあ、だなんて。ルカちゃんに「おばかさん」って笑われてしまった。でも迷案じゃない?もちろん叶ったら叶ったで、私は人間になりたいと言い出しそうなものだけれど。それでも今私は人間なものだからお肉になりたいの。たとえばお肉になった私はなにかしら、とか考えてみたりなんかして。国産黒和牛とかだったりしたら私そうとうの価値ある人間ってことじゃない?「おばかミク。お肉は食べられるか捨てられるだけの運命よ」…うん、そうね、やっぱりなんだかんだ人間でいいや。今みたいにニコニコ笑って、布団にはさまれて、他愛もないこういうお話をするのが私は好き。大好き。カチカチと時計の秒針だけがなり響くこの静かな保健室は私のお城だ。それだってのに、

「…それよりも」

って突然ルカちゃんの声がワントーンさがる。あーあ、やばいぞ。やばやば。これはいけない空気だわ。ルカちゃんが食いつきそうな話題を足りない脳みそから精一杯搾り出す努力に入る。確かに私はお肉になりたいってほざいてたけど、何も脳みそが空っぽっぽのお肉じゃなくてもいいじゃない。なんでこんなに言葉が出ないのかしらこの脳野郎。冷や汗が滝みたいで、目の前がぐるぐる回りだして、口がすっぱい。ルカちゃんはじっと私を見てる。彼女の口に目がぐいぃぃっと寄せられて、彼女のその色のよい唇の動きに全神経が集中させられる。開くの?その奥黒い黒い世界から言葉を発する気なの?そうだ、そういえばポケットにキャンディがあった、これをルカちゃんにあげ

「いい加減そろそろ教室、行きなさいよ」



(ショックで倒れたフリをしてみるなう)