エージェント、と声を出した。隣に座る彼はそれが当然のように「ん?」と笑って返す。彼はエージェントだ。本名は別にあるらしいけど、彼がそう呼ばれて返事をする程度にエージェントだ。でもそれが何故だか私には分からない。私だって自分がしおんである理由はわからない。だけど何故だか彼の代名詞を舌先で転がすと幸せな気持ちになるのだ。そこにプラスアルファ、彼の返事がつけ加わると熱いのは得意じゃないはずなのに身体が幸せなあったかさに捕われる。不思議。不思議。あなたは、不思議。

「エージェント」

だから繰り返し彼を呼ぶ。返事が来る。今度は名前を呼んでもらいながらがら頭も撫でて貰った。彼の舌先で転がった私の名前はどうだったろうか?自分で転がしてみたけど幸せは感じなかったから、やっぱりエージェントは特別ってやつなのかもしれない。

「あなたも、エージェントって言ってみるといいわ」

幸せになれるのよ?彼にもこの幸せを分けてあげたくてそう言って見せれば彼は真ん丸く目を見開いてから破顔した。私は笑われた理由がわからなくて自分の言葉を思い返すけどやっぱりおかしいところなんて何もなかった。それでも彼は横でまだ笑い続けているもんだから、今度はいたたまれない恥ずかしさで身体が熱くなって、「エージェント!」って自分にしては珍しいくらい声を上げて彼を呼んだ。「ああ、ごめん」彼の手が私の頭に再び乗っかる。

「…あなたなんか嫌いだわ」

撫でてもらうのは好きだけど、私は怒っているのだ。だからそう言って顔を思い切り背むけてみせた。それなのに彼は「ごめん、しおん」だなんて優しく名前を呼んでくれるから私の怒りはけろりとどこかへ飛んでしまう。エージェントはずるい。私の頭を一撫で、二撫でしてからちゃんと私の疑問にも答えてくれるからもっとずるい。

「俺が俺の名前をよんだって意味はないんだよ」

彼は言う。

「しおんが俺の名前を呼んで幸せを感じるように、俺はしおんがしおんだからしおんって呼ぶことに幸せを感じるんだ」

なんかややこしいな。なんて笑ってみせる彼のいいたいことは確かにちょっと難しかったけど、彼が私の名を呼ぶことで幸せを感じてくれる事実がただ嬉しかったから私はまた「エージェント」と、彼を呼んだ。





彼の代名詞。






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