意味不明のセット




01 あわあわあわ 泡のようにぱちんとはじけた(エーしお)
02 お願い 温もりを置いていくならばあなたを置いてって(カジサユ)
03 答など要らない 決して信頼していない、などではなく(つよスミ)
04 散りゆく君が一番好き(極愛)
05 感情の無駄遣い もうお勘定してもよろしくて?(六紫)


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ほら、と手を出して彼女を引き上げた。相変わらず朝の寝起きが悪いらしく首を振り続けるが、朝からやるテレビ番組を見たいから起こしてくれと頼んだのは彼女のほうだ。彼女の嫌がることなんかほんとはしたくないけれど無理やりにでも引き起こす。相変わらずひんやりと温度を感じさせないその手は彼女が普通ではないことを物語っているようで思わず眉をしかめるけれど、それを含めて彼女であることを考えると愛おしいものに変わる。ああ、違う。そんなことより彼女を早く起こしてあげなければ。チラリと見やる壁時計の指し示すは番組開始5分前。さすがにこれ以上はまずい。

「しおん、起きろ、しおん」

少し揺らせば、俺に引っ張られている手に反るように垂れ下がる彼女の身体はいともたやすく揺れ動く。うなり声。もぞりとその長い睫毛が揺れる。そんなときふと(…手は痛くないだろうか。)とよぎってしまう心配事がどんどん彼女を甘やかすけれど、一度考えてしまうともう遅い。彼女を引っ張っていないほうの手をその細い腰に回しその身体を支えてあげれば、ああ、しまった。楽な姿勢になったことをいいことに彼女が再び寝息を立てだしてしまう。もう一度揺さぶりをかけてみようか考えるけれど、彼女があんまりにも幸せそうに眠るから、もういいか。だなんて。

あわあわあわ 泡のようにぱちんとはじけた























彼はいつだってそう。ふわりと風船のように軽く、帰ってきているだなんてことを感じさせずに帰ってくるし、気が付けばふらりと風のように私にさえ何も告げずに旅だってしまっている。裏切りモノのようだと思う。猫のようだと思う。だけどそれでいいのだとも思っている自分は確かに存在している。彼は旅人なんだ。風船のように帰郷し、裏切りモノのように何も語らず、風のように去り、猫のように行方をくらませる。彼は旅人。止める術を、止めるための存在価値を私が持てていないだけ。

「ああ、でも旅人じゃないカジカ君なんてやだなぁ」

思わずポツリと漏れた言葉に、「そう?」だなんて彼はいつものように柔らかく笑う。今回は運よく旅立ちに立ち会えたけど、次はどうなることか。うん、とだけ呟いて前を見たらもう電車が到着したみたいだった。隣で彼が「それじゃあ」と一歩を踏み出す。私は「いってらっしゃい」と笑って見せる。ドアの開閉音。笑う彼のオレンジリュック。蒸気、むわり。電車が去り行く背をみつめ右手を固く握りしめたら彼の温もりが残っているような気がした。

お願い 温もりを置いていくならばあなたを置いてって
























「また、失敗したんだ?」

からからとまるで風車が回るかのごとく彼は私を笑った。嫌味だとかそんなのをまったく感じさせないほど明るく弾んだその声は、単にただ私の続き続く失敗がほんとにおもしろいのだろう。キッとにらみつけてやるけれど逆光が憎たらしくてすぐ目をそらした。するとそんな私をまた彼が笑う。悪循環だ。私は今きっと何をしても彼を笑わせるだけなんだろう。これならまだ嫌味で笑っていてくれるほうが何百倍もまし。「…悪の道は一日にしてならずよ」と決め台詞みたいになってしまった言葉を呟くけれどやっぱり彼は笑う笑う。

「そんなに私がおもしろい?」

イライラつのって思わず出た言葉。そんな言葉の返事はまた笑い声。「おねーさんが笑えばやめてやるよ」だなんて、ふざけ倒せ、意味がわからない。あのねえ、と今度こそ怒気を含んだ声で問いただそうとすれば、「いつも眉間にしわ寄せてるから失敗すんだよ」と彼は優しく笑った。ああ、なんだそんな笑いもできるんじゃない。少し呆気にとられた私が笑ってしまう理由はきっとこいつではないはずだ。

答など要らない 決して信頼していない、などではなく
























「愛子サン」

口からこぼれた音が堕ちた。拡散して融解して空気を伝わるけれど肝心の彼女には届かなかったようだ。窓の外を見ては微動だにしない。彼女の視線の先には春を告げ知らせる淡い花の蕾。枝の先端から芽吹いて芽吹いて春の訪れを祝い咲く用意をしている。「愛子サン」もう一度だけその名を呼ぶ。今度はちゃんと聞こえたらしい。いつものようにゆったりとした動作で振り返る彼女。怯えたような悲しいような叫びたいような苦しいような。それでいて愛おしいような。そんな感情がぐるぐる渦巻いている顔をして彼女の双眸が私を捉える。(…泣きたいのでしょうかね。)見つめられた途端幕がかかってしまったようにぼんやりする思考回路の中そんな答えをはじき出す。後はもう無意識。おいでと喉を鳴らして、両手を広げて。

「誰が」

そんな言葉と共に背を向け肩を震わせる彼女が何より一番好きなのだ。

散りゆく君が一番好き

























視線を浴び続けるテレビの向こうの偶像(アイドル)達の気分はこんなもんなのかねえ。だなんて頭の片隅でぼんやり考える。店を開店させてからはや三時間。一時間少し前に来店してお侍さんは今日もひどくこちらを見つめ続けている。

「…六、やめておくれよと言ったじゃないか」

手元でかき鳴らしていた三味線をピタリと止めてかわりに声を発せれば、お侍さんはくいっと手元のおちょこを一杯あおって「いいじゃねぇか」と口を開いた。よくないから言ってるんだって、きっと彼は微塵も理解してくれていない。嗚呼、これだからこの男は。と思わず毒づくも、他の嫌がらせ客のようにきつく言い返せないのはやっぱり色恋沙汰に躍らされた憐れな女だからだろうか。「…私も、所詮女だね…」自己嫌悪。そんな自分はなんだかあまり好きじゃない。思わず漏れそうになるため息を誤魔化すように再び三味線を構え前を見据えれば、その紅の瞳にぶつかってしまった。あまりにも真剣、あまりにも澄んだ…思わず呼吸さえ忘れて見入っていた私を彼が「おい」と呼び覚ます。音を催促されているのかと思って、「ああ、ごめんよ」とその細い弦を一本弾いた時。私の耳に届いたのは豊かな弦の響ではなく、彼の抑揚のない呟きだった。

「俺は自分の好きなものをおとしめられるのが嫌いだ」

感情の無駄遣い もうお勘定してもよろしくて?
















意味不明のセット






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