夕暮れの街並みを眺め下ろす。バベルの塔という教訓がありながらそれに懲りず高く高くあろうとする人間の傲慢さを表すかのようなビルの群れ。群れ。群れ。だけど、そんな自分だって今は誰よりも高く居たくてここにいるのだから笑いものだ。…それじゃあ人を馬鹿にする資格がない?何をおっしゃいます兎さん、人間である限りそんなものは生まれたときからありゃしないよ。日が反射して燃え盛るビル。日中は銀色の身体を光らせたそいつの姿なんて今はどこにもありゃしない。空も赤くて、それに反射されたすべたが赤い。実際は訪れなかった人々が想像するような世紀末はもしかしたらこんな赤だったのかもしれない。

「…そういえば、」

彼女の顔も真っ赤だった、なあ。なんて。真っ赤っ赤な君の顔、かあいかったですよ。実に、ええ。それがたとえ僕に向けれらていなかったのだとしても君がかわいかったことに変わりはまったくなくて。ていうかそもそも、僕は君が好きなんだから。君がかわいく思えないはずがないんだけども。目を閉じる。消える赤。訪れる黒、からの赤。君の顔。震えた声と指。はにかんだ。「――っ」目を開ける。よくない実によくない。この先はタブーだ。汚いからみちゃいけません。脂汗ぎらり、君がいなくてよかった。こんな汚くて醜い僕は見られたくない。ギシリギシリかみ締めるたび鳴り響く奥歯を無視して、赤を、どうにか赤を遠ざける努力。君の色、そう、赤じゃない。緑。それでいて空のような青。僕の汚い色をつつみこんでくれるくらい壮大な色。だけど、どうした。目蓋を閉じても、脳裏に思い返しても思い返されるのは赤い君ばかり、赫で、赤で、紅。君の色が迷子だ。荒れる呼吸をひっひっふーだなんてこんなときでもふざけて整えて見せる僕は大概馬鹿野郎で、君にはやっぱりふさわしくなかった。泣く。僕はだって、ただ、きみに溶けてしまいたかっただけなんだ。その青に抱かれて、僕を愛して欲しかった、僕が僕じゃなくなるくらいに溶かしてほしかった。それだけなんだ。間違っても君を、こんな夕暮れ色にしたかったわけじゃなかった。

「…っ、ごめんね、ごめん。」

下を見る。赤。夕暮れ以上の赤。ところどころ滲む、君の青と緑。真っ赤に頬を染める君はかあいかった。だけど、全部が真っ赤に染まった君は僕の望んだ空ではなかった。ごめんねって誰も聞いていないのに繰り返しながら、ずるりずるりとへたり込む。許せなかった。許すべきだった。これは傲慢だから。僕のただのわがままだったんだから。彼と楽しそうに笑う君。顔を赤らめて、緊張で指先と声を震わせて。彼は気づいてなかったみたいだけど、僕は知ってた。かわいい君。素敵な君。そんな君が一番輝いてたのは彼の隣で、僕は、ああ、そう、僕は、それが許せなくて、汚くて醜くて、君を君を、ねぇ、ごめんね、ごめん。君を、

「それでも好きだよ…っ」

居ない、いない。誰もいないけど。謝るよ、謝罪してるよ。ああ、それはなんて自己満足乙。悲劇のヒロイン乙。ごめんね、そうだよ巻き込んだ。僕は君を僕の傲慢に巻き込んで、そうだ、殺したんだ。突き飛ばしたんだ。彼女の背中をトンって、軽く、だけどしっかり押して、びっくりする彼女の目をじっとみつめて、僕はどうした?笑ったんだよ。君が最後に見たのは僕だって、笑ったんだよ。後悔だけが押し寄せる今だって、ごめんねを言いながら、どうした、すっきりなんてして、笑うの?すぐまた笑えちゃうの?なんてやなヤツ最低なやつ。

「…ストーカー乙」

震える足をぐっと立たせて、下を見る。君が居る。夕暮れも居る。僕も居る。だけど、君がいない。居るけど、いないね。そうだね、そうだ。僕もほら、いくよ。空気がつんざく音。ゴォォォなんて、空気が上に吸い込まれてるみたいだ。動く口。謝罪。後悔はしてる。でも、好き。「ごめんね」なんて言って、心がそれは嘘だと叫ぶけれど、自己満足にまた「ごめんね」を口走った。





きみに溶けてしまいたい、






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