今日はミクの機嫌がすこぶるいい。図書室の本を整理しながら鼻歌なんて歌っている。「図書室は静かにしましょう」だなんて言うべき立場である俺たちか静かにしないでいったい誰が図書館の治安を守るのか、だなんて。…知ってんよ。そんな普段気にならないようなことを気にしてる時点でこれはただのひがみだ。機嫌がいいのはいい。いつもより口角をあげて、にこにこしてるのはかわいい。だけど、だめだ。理由がだめだ。なんでも俺のクラス、本をよく読むイケメン。通称「図書室の王子」鈴木くんに呼び出されたかららしい。図書委員でもないくせに「図書室の」だなんてたいそうな通り名をつけられて、ああ、くそまたひがんだ。でも、あれだ、つけられるべきなら委員会の仕事とはいえ週に3回は図書館にいる俺のほうでもよくないだろうか。そうだ、俺が「図書室の王子様」ってやつで、奴が「本の王子様」でいこう、そうだそうしよう。嘘だけど。

「ああ、どうしようレン、「名前を教えてくれないかな初音さん」だなんて言われたらっ」

彼女がくるりと踊るようにこちらを振り返る。めったにないお呼び出しか、はたまた人にしゃべりかけてもらえた嬉しさか、返却処理された本達さえ大事そうに抱えてさあ。ああ、もう俺本でいいよ。本になるよ。先週配られた進路希望のアンケート、第一志望に「本」とでもかいておくわ。しかし、まあ、あれだ。呼び出しって言ったら、大体告白連想するだろうに頭もかわいいこの人は「名前を聞かれる」のを第一に考えてらっしゃるよ、そのアホらしさに涙が出るね。ああかわいいかわいい。

「その想像はいいけど、「名前を教えてくれないかな“初音さん”」だなんて言ってる時点で、名前を隠してるアイドルじゃあるまいし下の名前もばっちり把握済みだと思いますよお。つまり、そんなことは絶対聞かれないんで安心して頭冷やしてください」

というか、名前を知らない人をわざわざ呼び出すかっつーの。名簿とか友達とかいろんなコネクション使って調べてしまうのが常識だろう、お嬢さん。それにミクだ。ツインテールのかわいい上級生って言えば、誰でもだいたい思い浮かべる一人だよあんたは。かわいいもん。

「それじゃあ、何のためにお呼び出しするのよ」

ああ、馬鹿って罪だよね。俺にとっては今回ほんとありがたいけど、若干鈴木くんに同情を覚えないわけじゃないよね。ああ、馬鹿ってすばらしい。

「俺は鈴木くんじゃないので、知りませんよー。名前聞かれるなんて勘違いしてたお馬鹿さんを食べちゃうためじゃないですかあ」

そう冗談めかして言ってみたのに、それはやだなあ。なんてちょっぴり垂れるツインテール。そんな彼女の旋毛さえかわいいなんて馬鹿げたこと思いながら、「じゃあ、今日はおとなしくおれと帰りましょう?」とワラって見せた。最初はせっかく呼び出してくれた鈴木くんへの罪悪感に否定を繰り返す彼女だったけど、「食べられたくないでしょう?」やら、「俺同じクラスだから、上手いぐらいにごまかしておきますよ」とか。極め付けに、「おいしいカフェ見つけたんで一緒に食べたいなあ」だなんて言ってみせれば、そわそわ視線をさまよわせ、もごもご口を動かして、

「…いっしょに、帰る」

だってさ。ざまあみろ鈴木くん。俺とお前じゃまず付き合いが違うからね。

「ちゃんと、謝っておいて、ね…?」

ほうら、アホの子もう釣れた!






オオカミさんの口車。






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