勉強が好きだった。というか、成長過程が見られて結果が残せるものが何でも好きだった。ただあいにく貧弱だったせいでスポーツマンなんてかっこいいものにはなれそうもなかったから勉強にきたわけで。きっともうちょい頑丈にうまれていたらスポ根魂っていうの?放課後とか朝練とかそういうのすごいがんばる人間だったに違いない。なんて、まあそんなもしもな俺は置いておいて、現代にいる勉強が好きな俺は勉強がしたいわけである。それはもうものすごく。できることなら今すぐにだって勉強したい。こんな生まれ変わりでもおきない限りありえないであろうスポ根な俺という無駄なこと思考している間に公式の1つでも覚えて、例題を解き明かし「くっそ、勉強楽しい」だなんて達成感および満足感に満たされたい。それをそう「暇だわ、レン」だなんて。ああ、あなたはいつも邪魔をする。

「今日は、何これ?…複雑系?基礎数理?バッカじゃないの」

こんなの実際問題なんの役くにもたたない記号だわ。俺の見ていた教科書をかってに取り上げ、机の上に乗っかったまま彼女はせせら笑う。「返してください」なんて言ってみるけど聞く人じゃないのは学んでいる。逆にこの一声だけで返してもらえたら何かよくわからない気持ちでその日一日満足するかもしれない。とりあえず今日もやっぱり返す気ないらしい。興味も何もないくせにパラリパラリと流し読みなんかしだしてる。

「…何か面白いことでものってましたか?」

「ないわよこんなバカみたいなの…ツァリスエントロピー?何それどっかの会社のロビーのこと?」

あきれた。

「どっかの会社のロビーがなんで情報数学の教科書に載るんですか…いいからもう返してください、そしてできれば帰ってください勉強したいんですよ、俺は」

ほんとにまあ毎日毎日飽きもせずよく来るものだ。彼女に出会ってから俺の勉強時間は少なくとも毎日2時間は削られている。グラウンドに響く部活の声、誰もいない勉強するために作られた教室、職員室に先生。放課後っていうのは実にすばらしい勉強環境なわけで、その貴重な時間をなぜ彼女に割かなければいけないんだろうね、ほんとに。

「…俺はあなたが嫌いだよ」

いつもいつも邪魔ばかりして。教科書は返してくれないし。まず勉強をするためにある机に座ってることが気に食わない。だからもう一度「嫌いだ」なんて。それなのに彼女はつまらない記号の羅列を見たときみたいに心底詰まらなさそうに「ふーん」と鳴くから、少しだけ胸の置くがチリリと焦げ付く。自分で巻いた種に自分で火をつけたとかどこのバカだ。八つ当たりみたいに彼女の見ていた教科書を奪い返して、くそっくそっとざわめく心を押さえつけることに集中する。そよりとなびくカーテン。夕暮れの日差し。ツーアウトだなんて声。とくり、とくりと自分の心音を感じながら少しずつ心を整理させて波を遠ざけた、直後。

「だけど、レン。あなた私が来なくなったら寂しいでしょ?」

彼女が俺をまっすぐ見て得意げに言い放った。なんて傲慢。なんて自意識過剰。信じられない。それでも、何も言葉が発せず口がぱくぱく動いてしまうのは、心拍数が上昇してしまうのは、きっと彼女のそのまっすぐな瞳が俺に何かしているからに違いない。

「…っ」

「あはっ、真っ赤だ」

ころりころり。笑い声が放課後に転がった。





(「…生意気ですねあなた」)
(「レンよりおねえさんだからね」)


クランベリーの鷲掴み。






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