ミクさん→ぐみちゃんズ→男




わざと大きな音を立ててその部屋に踏み入った。中でひくりひくりと定期的に肩を揺らすあの子に私の存在を知らしめるためだ。驚いたように振り返るあの子の顔は想像通り真っ赤に泣きはらされていて、ああ、私ならこんな顔させないのにとどこか頭でぼんやり考える。「どうしたの?」だなんて、わざとらしく聞いてみようか。その前に笑顔を貼り付けておいた方がこの子はもっと私になつくかしら。そうやって、馬鹿の1つ覚えににこにこと笑顔だけ絶やさずになんて話しかけようか考えていれば、とさりだなんてなんともかわいらしい音を立てて彼女の体が後ろに思いっきり倒れ…跳ね起きた。じっとりとした空気が入れ替わる感覚。やらかした。ああ、あの泣き虫なあの子も結構好きだったのに一言も会話できずに終わっちゃった。やっぱり悩んでなんかいないで、どうしたのでもなんでも話しかければよかったのよ私のお馬鹿。ぱちりぱちりと瞬きを繰り返す今度のぐみちゃんは、ああ、きっと、

「あっれー?ミクちゃんだあ」

陽気なぐみちゃん。

「どうしたのー?忘れ物?」

笑顔でにっこり聞かれてしまった。忘れ物?忘れ物を取りに来たの?ってことかしら。そうだね、忘れ物だったらよかったのに。さっきのあなたの一部始終を見た末に、「すとーかー」しました、だなんていえるわけないじゃない。…ああ、うん、そうか、忘れ物か。あなたを忘れました、なんてどうだろう。だめか、冗談乙。

「違うよー、私は先生に頼まれごとされちゃったの。ぐみちゃんは」

一呼吸。

「どうしたのかな?」

ぴたり、停止。笑顔のまま固まる、ぐみちゃん。それから思い出したように、「考え事をしていたら、こんな時間になっていたのだよー」なんて答えが返ってきた。うん、今日も正常に応用脳は働いているみたいだ。記憶の共有を持たない彼女達人格の間では知らない間に知らないところにきているなんて日常茶飯事。そのたび何かしらとってつけたような理由が脳で加算されているみたいで、今日はなんとびっくり「考え事」らしい。ああ、かわいい。私にとってはそんな彼女達がたまらなくかわいくてしょうがないのだ。おとなしい娘 、陽気っ子、ツンデレにセクシー、ダルデレ、肉食系、ドSに森ガール、そして新入りさんの泣き虫。ぐみちゃんの中には9人のぐみちゃんが住み着いてて、みんながみんなあたしの好きな人。どれか1つだけだなんて、なんて贅沢。私なら全部丸ごと、くるっとひっくるめて愛してあげれる。だから、そう、あんな男のために消えてあげるだなんて、馬鹿な考えは起こさないでほしい。ぐみちゃん達みなみんなに愛されていながら、そうやって私のほしいもの手にしておきながら、一人だけです。だなんて、許せないよね。信じられないよね。

「あんな男、やめちゃってよ」

思わず漏れでてしまった本音に、ハッとなって口をふさぐ。ああ、時間戻って来い。彼女を傷つけるようなこと、言っちゃダメ。ダメじゃんか、ダメダメじゃんか、ああ、変わっちゃう。私との思い出で人格かえちゃう様な嫌な思い出はつくりたくないのに、ああ、ああ。チラリと横目で彼女を見れば、ふっとどこか気の抜けたような目をして、瞼が閉じて、開かれた。

「…あー、あ、ミクちゃん、こんにちは…?」

ダルそうな気の抜けた声。悪口1つが嫌なことにまでなるあの男の存在が羨ましくてたまらない。私のほうがきっとぐみちゃんのこと好きなのに。


ああ、入れ替わった!




 






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