春風のワルツ | ナノ


07

本来ならば舞台の上で演奏するのが当たり前やろう。昨晩の瀬戸さんの舞台はベンチの上。それやのに、どうして瀬戸さんはあんなに美しかったんやろう。脳裏に焼き付いて離れへん。見慣れへんもん見せてもろたにしても、中毒のようや。



「…らいし、白石!」




ハッと目を開けると謙也が弁当箱を俺の席に置いて、前の人の椅子に腰掛けてた。あれ、いつの間に四限目終わったんやろう。しもたな、今日はずっとこんな感じや。



「シャンとせいよー」
「すまんすまん。食べよか」



ふと瀬戸さんの席の方に目を向けたら、瀬戸さんは一人で弁当を食べてた。そういや、いつも一人で食べてんな。その姿は考えすぎかも知れんけど、どこか寂しそうに見えた。
俺らとなんて嫌やろか。ちょっと昨日の晩話したからて、厚かましいやろか。色々思うこともあるけど、とりあえず誘ってみよう。断られたら断られたで構わへん。言うだけ言ってみよう。



「瀬戸さん」
『どうしたの?白石くん』
「いやや、瀬戸さん。どうしたの?なんて、もう昨日もう素の瀬戸さん知ったのに
『白石くん!ちょっと手伝って!』



物凄い速さで立ち上がり、昨日のように俺の腕を引き教室の外に向かう瀬戸さん。ふと謙也と目が合うと、また苦笑いしてた。俺、まずいことしてしもたんやな、きっと。でもなんかワクワクしてる。瀬戸さんに腕を引かれながら登る階段ですら楽しく感じてた。



『なに笑ってんの』
「や、なんでもないよ。にしても今日はどこに連れてく気?」
『屋上!ちょっとシメてやるんだから』



瀬戸さんが屋上の扉を開けると、眩しいくらいの春の日差しを浴びた。もー、そう言いながらも瀬戸さんも笑った。離された腕が熱い。少し前まで好きやった瀬戸さんの笑顔じゃないのに。作り物と知った今では、この笑顔の方が好きやと思える。



『敵わないなー、白石くんには。せっかく私が猫被って築き上げてきたもの、台無しにしようとするんだもん』
「あ、ごめん」
『いいよ、もう。なんか今ので馬鹿らしくなっちゃった』
「何の為にいい子ぶってんの?」
『んー?内申だよ。内申!』



内申の為にそんな無理してまで良い子なキャラ作って。なんでそんなしんどい生き方してんねやろ。聞いてもいいんかわからんくて黙り込んでたら瀬戸さんが話してくれた。



『私ね、音楽科のある高校に行きたいの。ヴァイオリンの実力じゃ通るかわかんないから、こうして内申だけでも上げてたんだよ』
「そんな…」
『ほら。私、毎日遅くまで練習してるし友だちと遊ぶ暇なくてね。だから友だちいないって訳』



さっき教室で見た、どこか寂しそうな表情。胸がぎゅっとなる。



『で、白石くんはさっき教室で何て言おうとしてたの?』
「弁当、一緒に食べんかなって…」
『えー?妙な噂されたらどうすんの』
「そ、それは…」
『後先考えてないなあ。でも、ありがと』



ああ。やっぱ俺、瀬戸さんが好きや。はにかんだ瀬戸さんを見てそう思った。よかった、迷惑なだけじゃなかったんや。



「ほな、俺と友だちってことで」
『え?』
「俺も部活してるし。オフの日とか合ったら遊ぼうや。俺でよければ、やけど」
『私、一人でいるの、慣れてるのに…』



そう呟いた瀬戸さんは笑ってた。イエスってことでいい?そう聞くと瀬戸さんは笑顔のまま頷いた。きっとここからがスタートラインになる。やっと動きはじめた俺の恋。友だちという関係からやけど、俺には大きな大きな第一歩。








君とのスタートライン


(ほんまに今までの全部、作られたキャラやったんやったん?)
(そりゃね。今時あんな生真面目なの、表彰もんだよ)(せ、せやんな…)
[ prev | next ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -