春風のワルツ | ナノ


03

「あー、おもろかった!」



映画館を出るなり、謙也が満面の笑みで俺と財前に共感を求める。
休日練習が早く終わったから何処かへ遊びに行こうと部室で謙也と話していたら、隣で着替えてた財前が観たい映画があると提案したので映画を観ることになった。
爽快すぎるくらいの洋画アクション。もっと強くなりたいと、そう思えた内容やった。謙也の言うように、俺もこの映画は当たりやったと思う。



「主人公の恋人可愛かったっすわ」
「せやんな!あ、でも白石は同意してくれんと思うわ」
「待て待て」



コソコソ話しだす二人を制止してみるも、余計に謙也をニヤニヤさせてまうだけやった。俺の天使、とか痛いっすわ。財前はじとっとそんな表情。



「帰ろ帰ろ!もう20時過ぎてんで」



二人と別れ、妙に照れくさいような気持ちを抱きながらも、さっきの映画の余韻に浸る。格好よかったなあ。外人やからか、男前さ五割増しってとこかな。
路地を抜けて、住宅街に出る。俯き加減に歩いてると少し先に、街灯に照らされた男女の影が見えた。近付くにつれて、心拍数が少しずつ上がってく。

『じゃあ、ここで』
「ああ。今日も素晴らしかったよ」
『嬉しいわ』
「愛してる、彩音」



二人の影が重なる。抱きしめ合う、と言うよりハグと言う表現の方が正しいかと思う。けど問題はそこではなく、男の肩に軽く顔を埋めた女性にある。
いつもの様に髪を結んでないけど、その女性はどうも瀬戸さんみたいや。じわじわと沸き上がってくる悪寒を感じながら二人の横を通り過ぎる。
瀬戸さんじゃありませんように。



『あれ』



背中に寒気が走る。きっと瀬戸さんの声や。でも声がした方を向くのがただただ怖かった。走り抜けると、なんだか涙が出そうになった。
見たところ十は年上やろう男と愛を囁いていた瀬戸さん。映画の中なら、こんな結末ないやろうに。上手くいきすぎる映画や漫画の展開を恨みたくなる。なんで、こう、うまくいかんのかな。夜風を切りながら、そんな悔しさを噛み締めた。








晴れのち涙
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