春風のワルツ | ナノ


14

加速して日は流れ、ゴールデンウィークを目前に控えた四月の終わり。季節は桜色から木々の緑に色づきながら変わってく。
彩音ちゃんとは口をきいてない。目が合っても、ついそらしてしまっていた。時々感じる彩音ちゃんからの視線。彩音ちゃんも気にしてくれてんねんやと思うと、少し嬉しくなったりもした。けど声は掛けれんくて。何を、どう話したらいいかわからんかった。
お昼ご飯も、また謙也と食べてる。彩音ちゃんはと言うと、また一人で食べていた。元々一人でおることを苦に感じてなかった彼女には、どうってことないことやろう。



「白石、部活行こー」



謙也に告白したことを話したら、よくやったと褒められた。計画性もなんもない、過ちに近いものを感じていたのが少し楽になった。
階段で偶然財前に会って、自然と並んで歩く。こうして他愛もない話をしていると、少しだけ孤独を感じてしまう不思議。やっぱり何かが足らんて、心が訴えてる。それに気付かぬ振りして過ごすのも、虚しい。
彩音ちゃんは、それを見抜いてくれているのか。いつも、苦しいときに俺に笑顔をくれる。



『遅いぞ、白石蔵ノ介!』



俺に掛けられる声が懐かしくて、胸が熱くなる。込み上げてくる感情を必死に抑えながら、彩音ちゃんに駆け寄る。
もう怒ってないんかな。こんな俺のこと、許してくれるんかな。



『ねえ、嘘つきさん』
「…ごめんな」
『謝ってほしいんじゃないよ。それより、これ』



そう言って差し出されたのは一枚の紙切れ。コンクール、と書かれたチケットを慌てて彩音ちゃんの手から受け取る。改めて見てみると、ゴールデンウィークに行われるヴァイオリンのコンクールのチケットやった。
こんなんに招待してもらえるなんて。また、彩音ちゃんの演奏が聴けるなんて。



『こないだの返事、するから』
「ありがとう」
『私の気持ち、音に乗せて届けるよ。だから』



もう少し、まってて。
クスリと笑って彩音ちゃんは去っていった。
よかったやんと騒ぐ謙也と、デレデレしすぎっすわと笑う財前。よっしゃあと俺も叫ぶと、その辺の視線を独り占めすることになった。いい返事をもらえると決まった訳やないのに、こんなにも嬉しい。前に進めること、それがただ嬉しかった。
サクラサクかサクラチルか。俺の春も風とともに、もうすぐそこまで来ている。








かけがえのない春
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