春風のワルツ | ナノ


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「ナイスゲーム!」



練習試合やからか公式戦の時と違って選手の表情が何処か柔らかい。そんな自分もそうやったりする。通しでの試合を一通り終えて、一息つく。練習相手の学校と数少ない交流を、うちの選手たちも束の間に感じていた。
いい感じに疲れたな。テニスバックの上に乗せていたスポーツタオルを取り、顔から流れる汗を軽く拭う。顔を上げたところで、フェンス越しに木に体を隠して顔を覗かせ、こっちの様子を伺う女の子と目が合う。



「彩音ちゃん!?」
『は、はは。来ちゃった…』



引き笑いを浮かべながらフェンスに寄ってくる彩音ちゃん。気まずいんやろか、いつものような飄々さは感じられへんくてどこか不思議やった。花柄のワンピースにネイビーのカーディガン。やっぱり天使みたいや。いつもと違って結ばれてない髪が風になびいてる。



「な、なんで…」
『いけない?友だちの部活見に来ちゃ』
「まさか!あかんわけないよ」
『見てみたかったの。蔵ノ介くんがテニスしているところ』



いつから見てたんやろう。名前で呼んでくれたことが嬉しくて、聞くタイミングを逃してしまった。色々聞きたいこと、言いたいことがあったのに。彩音ちゃんと見つめあってる、それだけで向き合えてる。そう確信した。聞かなくたって、解る。不器用ながらも恋してる自分が、少しだけ誇らしく思えた。



『…ごめんね。私、やっぱり何処か恥ずかしくて。今までずっと一人だったから』
「ううん。彩音ちゃんのやりやすいようにしてくれたらいいよ」
『それじゃ駄目だよ。私ね、ちゃんと変わるから。次こそ、約束』



彩音ちゃんは左小指を立てて、俺へ向けた。約束。俺も何気なく小指を立ててみたらフェンス越しに、指切りね。と彩音ちゃんが優しく笑った。



『それじゃ私、練習に行くね。また明日』
「あ、次は俺が」
『え?』
「次は俺が!彩音ちゃんの応援に行くから」



頼りにしてます。そう残して彩音ちゃんは颯爽と去っていった。また俺に、新しい笑顔を残して。


明日になると、本当の彩音ちゃんで教室に入ってきた。みんなの視線を集めながら俺の席の横をいつものように通る。立ち止まり、おはよう。と挨拶しあった。



『どう?似合ってる?』
「うん。可愛い」



髪を結んでいない彼女こそ、素顔なんやろう。優等生という仮面を外した彩音ちゃんは、凛々しくて、力強い。
緑の町に舞い降りた。生まれ変わった、俺の天使。








ぶきように恋してる
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