春風のワルツ | ナノ


10

四月の夜はまだ少し冷える。薄い上着を羽織ってコンビニに来たものの、欲しいものが見当たらなくて少し困った。何かをしていないと、なんとなく落ち着かない。最近の俺の気分の浮き沈みは尋常じゃないと思う。こんなん疲れるだけやてわかってるのに、いつしか冷静になられへんくなってた。
無駄な買い物はせんと帰ろう。出入り口に向かうと、付近で雑誌を立ち読みしている見慣れた少年に目がいく。謙也や。数時間前まで一緒に部活してたから、こうして再会するのが少しだけ不思議に思えた。
お疲れ。と声を掛けると謙也は一緒に帰ると見ていた雑誌を閉じてラックに戻した。



「週末やな」
「やなー」



一緒に帰ろかな。そう言われたので、謙也とコンビニを一緒に出た。歩きながらも金曜やからか、ふたりして妙な解放感に浸る。とはいえ明後日には練習試合を控えてるから、明日も朝から練習がある。休みはないもののやっぱり休み前というのはどこかワクワクするもんや。冷えた夜風が気持ちいい。



「白石、最近らしくないよな」
「…わかってる」
「でも俺、今の白石のほうが好きやで。感情に左右されんのもたまには悪くないやろ?」



謙也が笑う。その言葉で少しだけでも救われる俺は、いい友人を持ったと改めて感じた。
自分の中の彩音ちゃんの存在が大きくなる一方で、思うようにいかへんもどかしさがあった。人との距離を縮めるのってこんなに難しかったっけ。そう謙也に呟くと、そうやなあ。と謙也の表情は苦笑いに変わった。



「わからへん。って言えばいいやん」
「あれから話してないのに?」
「考えたけどわからへん。って。話してくれるわ、きっと」
「どっからそんな自信が…」
「本性がどうであれ、エンジェルなんやろ?白石の」



バカじゃないの!?そう言われてから二日。何度か何気なく話し掛けてみたものの、明らかに避けられていた。クラスの女子からは俺と付き合ってんのかとか聞かれてたけど、それも彩音ちゃんは当たり障りのない回答で上手く否定していた。



「向き合ってみないとわからんて。そんなん」
「…せやな」
「ウジウジしてみるんもええけどさ、あんま俺と財前に心配かけんといてくれよな」
「はは、すまん」



こうして謙也と笑いながら話してるとだんだん元気出てきた。きっと、二人とも器用やないから。ぶつかり合うしかないんやと、何処かでは解ってた気がする。解ってはいたけど、怖くて踏み込めずにいた。彩音ちゃんは、どんな気持ちなんやろか。謙也のお陰で、今こうして前向きに考えられるようになった。



「悩んでたって何にも変わらん、よな」
「せやで。と言いながら、白石がこんな追い詰められてるん、なんか嬉いねん」
「え、なんで」
「瀬戸さんの本性知って、夢壊れたとか詐欺やとか言うと思てたからさ。見た目やうわべだけやなくて、ちゃんと瀬戸さんのこと好きやってんなーって」



人を好きになるってこんなに大変なことやったんやと最近は感じてたけど、やっぱり楽しい気持ちや幸せな気持ちのほうが勝ってる。彩音ちゃんを好きになれてよかった。何より今は、謙也と話せてよかったと思う。彩音ちゃんは平気やって言ってたけど、やっぱり友だちって大事や。



「サンキュ」



どんな結果になろうとも、後悔だけはしたくない。今の俺には、遠くの星に祈ることしかできひんかった。








遠くの星に祈った
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