05


脇腹がチクチクと痛む。もうすこし早く布団から出ていれば、走らなくてすんだのに。寝起きは悪い方ではないのに。きっと今日は厄日だ。考えれば考えるほど、不安になってくる。

あたしって本当、体力ないなあ。

まだ学校まで結構あるのに、既にバテている。そんなに速く走ってないのに。こんなので予鈴に間に合うのかな。
いつもと同じの通学路、同じ制服を着てる人がいないから、余計不安になる。いつもなら必ずと言って良いほど同じクラスの子に会うのに。角を曲がると、同じ学校の学ランが視界に入った。それも悠々と歩いている。



『ひっ、ひかる…』
「…こんな時間にこんなとこおったら遅刻すんで」
『やから、走って…』



自分では走ってるつもりやのに歩いてる光とペースが変わらへん。こんなんじゃ光が言うようにほんまに遅刻する。



『ひかるは…』
「俺はいいから。先行き。走ったらまだ何とか間に合うわ」
『ん…。ほ、ほな…』



あたしなりに加速してみる。ああ、もう足が上がらない。呼吸もうまくできない。苦しい。もう走りたくない。



「ったく、見てられんわ」



急に体がふわりとした。背中に強い圧迫感を感じ、景色が今までより速く移ろいだした。
足だけはよ動かせ。背後から光の声がする。光が背中を押してくれてるんだ。光。そう呼んでも光は何も言わずあたしの背中を押し続けてくれた。速い。これなら予鈴に間に合いそうだ。








『今朝はありがとう』



一限目が終わったあと、改めて光にお礼を言いに来た。光のお陰で遅刻せんですんだよ。そう伝えると、 光はさっさと自立しろよと笑った。



『席替えしたんやね、七組』
「おう。廊下側の一番前とかなかなかな引きやろ」
『あたし嫌いやないけどなー。よく当てられるような気はするけど』
「寝られヘんやん」



光がこないだまで座ってた後ろの方の席には、別の男の子がいた。それとは裏腹に一番前にいる光。何だか面白い。



『ほんならね。ほんまありがと!』
「おー」
『またお礼考えとく!バイバーイ』



光があの席になったお陰であたしは七組に行きやすくなった。廊下からドキドキして覗き込むこともないし。光にこんなんゆうたら、俺はたまったもんちゃうわ、とでもため息つかれそう。



「雛山さん」



背後から聞き慣れへん女の子の声がした。少し緊張しながらも振り返ってみる。



「急にごめんね。私、七組の芹沢ってゆうんやけど」
『あ、うん…』



この子、七組で見掛けたことある。七組には光しか知り合いおらんけど、顔くらいはわかる。話したことないけど何の用やろ。やっぱりなんか緊張するなあ。



「突っ込んだこと聞いてまうねんけどええかな?」
『な、なんやろ』
「雛山さんって、財前くんのこと好きなん?」
『え、ううん。そうゆう感情はないよ』



「私、ずっと財前くんのこと好きで…。雛山さんのこと気になっててん。聞けてよかった!ありがとー」



光もこんな可愛い子に好かれるなんて幸せもんやなあ。あたしにも、好きな人くらいできたらええのに。

あたしにも、恋の扉が開きかけてることに、今のあたしはまだ知る由もなかった。


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