04


甘い香りが教室中に漂う幸せなひととき。今回の調理実習は、パウンドケーキを作るというメニュー。



『…できた!』



ひとグループ四人。この大きさやったら一人二切れの八等分が丁度良い大きさになるやろう。
誰かの為に作ると、料理って楽しい。特別、料理が好きって訳やないけどなんか今日の調理実習は特別楽しかった。柄にもなく、グループで一番張り切ってしもた様にも思える。でも、その甲斐あってか、上手く焼けた。



「愛、ラップもろてきたよー」
『ありがとー。でもあたしはええわ』
「?」
『ラッピング、家から持って来たから…』



友人にまで照れてしまうなんて、なんか変や。昔と変わらず、優しくしてくれて嬉しかったから。そのお礼ができるかもと、光に食べてもらいたくて。ただそれだけやから恥ずかしいことなんて何もないのに。



「へー。きっと喜ぶよ、財前くん」
『…え!?な、なんで光やってわかったん!?』
「愛が渡したくなる様な男子には財前くんしか思い浮かばんよー」



誰も男にやなんて言うてへんのに…。恐るべし友人。それでも、茶化したりせんのはきっとあたしと光の関係を理解してくれてるからやろうか。よし、良い感じにラッピングできた。



「めっちゃええ感じやん!ほんなら財前くんに渡しに行こうや」
『昼休みでええよ』
「あかんて!ほら、行こ」



無理矢理引っ張られる腕。そんな状況の中でもあたしの頭の中は光が喜んでくれるかどうかの想像でいっぱいやった。

廊下から七組を覗き込むと最後列の席でだるそうにぼんやりしてる光を見つけた。ひかる、ひかる。念を込めて見つめると、念が通じてか光と目が合った。ため息をついて席をたつ。



「なんや。弁当忘れたとか言うてもやらんぞ」
『なんでそない可愛ないことしか言えんの。せっかく来たのに』
「用もないとか」
『あるよー。授業で焼いてん。光にあげる』



光に差し出すと、キョトンとしながらも受け取ってくれた。よかった…。隣におる友人の表情も明るくなった。応援されんのもくすぐったいけど、友人の応援はやっぱり心強い。



「…おおきに」
『なんか今日は妙に素直やね。いつもみたいにいらんとか言わんの』
「今はなんか低血糖やったからだるかってん。もろとく」
『そっか』



このパターンやと、光はきっと喜んでくれてる。やっぱり昔から変わらへん。今もずっと、光は優しい。
ほなね。光にそう伝えて、隣に立ってる友人にも目で教室に戻ろうと伝える。数歩歩いたところで光に名前を呼ばれた。振り返ると、あたしが渡したパウンドケーキを指していて。



「これ、愛の分あんの」
『あたしの?』
「愛の食う分」
『ええねんええねん。光に食べてもらう為に作ったから』
「あほやん」
『あほちゃうし。

光は、あたしのスーパーマンやから』



光にバイバイと手を振ると、見兼ねた友人が肘でつついてきた。スーパーマンやなくて旦那の間違いちゃうのん。そう含み笑いを浮かべて。
光が困ってたら、一番に助けてあげたい。光がいつもあたしを助けてくれるように、あたしだって光のスーパーマンになりたい。光が知ったら笑われそうやな。ついあたしまで笑ってしまった。


ぼくのヒーロー

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