03
「あっつー!はよプール入りたいなあ」
『せやね。でも四限目やからまだまだや』
暑い暑い体育館での集会がやっと終わった。体育館ってなんであないに湿度高いんやろ。問題になってる熱中症たるものにあたしらもかかってまうよな。そんなことを話してたら階段でつまづいた。
「大丈夫?どんくさいなあ、愛は」
『った…。あ、靴ひもほどけてしもた』
「ここ混んでるしはよ教室戻ろ。教室で結び直したほうがええやろ」
『ううん。先戻っててー。またつまづくん嫌やし結び直してから行くわ』
混み合ってる階段でしゃがんで靴ひもを結び直すて意外に難しい。頭上から知らん声がたくさん聞こえる。それだけでもなんでか不安になる。蝶々結びって難しいな。羽が一緒くらいの大きさになれへん。これやったらまたほどけてまう。あかん、冷静になれ。落ち着いてゆっくりしたらできるはずや。
「愛?なにしとん…」
『ひ、光』
見上げるまでもなく光ってわかった。もう七組に追い付かれたてことか。光をチラ見すると鬱陶しそうな顔であたしを見下ろしてた。あああ、邪魔してごめんなさい。光以外の人も絶対邪魔やと思てはる。
『ご、ごめん』
「ええけど…。とっくに三組の奴ら戻ってんのちゃうん」
『靴ひもほどけてしもて…』
混み合ってるのにも関わらず光はあたしの横にしゃがんだ。あたしの手をどけて、光の指があたしの靴ひもに触れる。ササッと結ばれてくひもをただただ見つめてた。
「ほい」
『ありがと…』
「靴ひもくらい自分で結べるようになれよ」
立ち上がるなり哀れな目で見てくる光。ムッとしてまうと、頭をぽんぽんと叩かれた。いつもは結べるもん。今日は調子悪いだけ。と呟いた。明らかに、いつも調子悪そうやないかという目で見てくる光と同じ速さで階段を上った。
『光ってさ』
「なんや」
『優しい、よな。ほんまは』
は?と睨みをきかして返事をする光にもう一度お礼を言って三組に入った。教室の中では友人が待ってくれていたらしく、私が教室に入るなり掛けてきた。
「愛、よかったー」
『光のおかげではよ戻れた!』
「ほんま自分ら…」
仲ええよな。友人のその言葉で思わず笑ってしもた。中学生になって、一緒におる時間が減っても光は光のままやから。きっとあたしもあたしのまま。みんなには秘密やけど、いつになっても光はあたしのヒーローや。本人に自覚はないやろけど、いつだって助けてくれる。あたししか、知らない光。
蝶々むすび
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