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『追っかけてこんといて!』
「あのなぁ…。こんな速さやと追いかけてる内に入るかいな」
『ほんならほっといて!』
「それは無理」



無我夢中で走ってるというのに。しかもあたしは涙で視界がぼやけてるというハンデ付き。これ以上話したところで、不器用なあたしは上手く話せんやろうから。



『あほっ。光のっ…あほー!』
「相変わらず走るん遅いなあ」
『そんなん言う為に追いかけてくんのかいな』
「意味わからんし」
『あたしの勇気を…。あほ、あほ』



光の無神経。ひどい。ひどすぎる。なけなしの勇気を振り絞って伝えたのに。
ほんとうは平気なんかじゃない。知り合う前に戻るだけやのに。それだけやのに。なんでこんなに悲しいんやろう。なんで、こんなに。



『うぅっ…』
「泣くなよ」
『…っ』
「…世界中には」

「世界中には、どんな思いも、叶う日がくる」



光が意味わからんこと言い出したと思えば、肩を強引に引かれた。背中に何やら心地いい圧迫感。抱きしめられてると理解したときには、涙が溢れて、心がぐしゃぐしゃになっていた。



『な、何言ってんの』
「…それは俺の台詞や。こんな言葉を支えに頑張ってる俺、どないしてんて感じやないか」
『ひ、光らしくない言葉…』
「小学生のとき、愛が俺にくれた言葉やねんけどな」





一瞬にしてあの頃の記憶が蘇ってくる。


小学三年の時に初めて一緒のクラスになって、梅雨の時期に一緒に傘をさしながら光と帰った時の記憶。大して仲良くもないのに、なんか成り行きで一緒に帰ることになった気がする。その辺の記憶は定かではないけど、その時の不機嫌そうな光の表情は今でも覚えてる。





『雨、嫌い?』



恐る恐る聞いてみたら、光は目も合わさずにうんと答えた。怖いなとは思ったけど、それならいいことを教えてあげようと思った。おじいちゃんに教えて貰った言葉。財前くんにも分けてあげようって、ピュアな心でそう思った。



『それなら、雨が止みますようにって願えばええんよ』
「は?」
『絶対叶うから』
「胡散くさ…」
『ほんまやもん。

世界中にはどんな想いも、叶う日がくるねんで』








それからだ。光にちょっかいかけられては喧嘩したり、仲良く遊んだりしたのは。笑った顔を見せてくれるようになって、怖そうなイメージなんて、すぐになくなってた。いつしかかけがえのない存在になって、今となっては。



『ひかる…』
「俺は、好きやで、ずっと」
『あ』
「愛は?違うん?」



頭が混乱してる。光があたしを?好き?
いつも泣かされてばっかりで。でも、優しくて。あかん、わからへん。自分の気持ちも、光の気持ちも、なんにもわからへん。冷静に考えられへん。



『違う…もん』
「嘘つくな。好きやろ、俺のこと」
『なっ…』
「往生際悪いな」



微笑んだ光の顔が近付いてくる。どうして。どうして光にわかってまうんやろう。あたしにだって、わからへんのに。
あと少しで睫毛が触れてしまいそう、そんなところまで近付いて思わず目を閉じてしまう。あたしの唇に優しく触れられる光の唇。

光が、好き。かも。

風とともに新しい夏が、もうそこまで来ていた。


風の辿り着く場所

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