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ぽっかり空いた穴に気付かない振りをしながら、夏休みを目前に控えた。振り返ってみれば、元々あたしには何もないことに気付く。きちんとけじめをつけなくちゃいけないことくらいわかってる。ただ、あたしの中の何かが、それを拒んでいるのだ。あたしにもわからない、何か。
「おーい」
『…はーい』
「明後日から夏休みやってゆうのに、何て顔してんねん、愛」
ぼーっと窓の外の景色を眺めていたあたしに声を掛けてきたのは光ではなく、友人やった。ひかる、ひかる。あたしの心は、いつだって光を呼んでる。離れてみな、わからんかったこと。ずっと一緒におれる訳やない、ということ。
『せやね…。楽しもうね』
「あんたなあ…。愛、こないだからずっと脱け殻状態やけど、夏休み入ったらいつもの愛に戻ってよー。ほな帰ろう」
いつもの愛。あたしらしさって何やろう。ひとつのことが気になりだしたらほとぼりが冷めるまでクヨクヨして。こんなんやから、いつまでたってもひとりで何にもできひんのやないか。
『せや。不器用やねんから、ひとつひとつ解決しくしかないんよな…』
「愛?」
『確かにこのままじゃ貴重な夏休みを棒に振るうことになる…。それだけは避けたい』
「ちょ、大丈夫?」
『…ありがと!あたしなりに決着つけてくるから!』
あたしの名前を呼ぶ友人をよそに、鞄を抱えて教室を飛び出す。いつもは走ったら怒られるから怖くて走れんかった廊下。あたしなりの全力疾走で駆け抜ける。器用に生きることなんて、これからだってできひん。やから、不器用なあたしなりに伝えよう。
『光っ!』
勢いよく七組を覗き込むと、先頭の席に光の姿はなかった。慌てて七組を見回すも見慣れる姿は見当たらず。
「雛山さん」
『芹沢さん…』
「財前くんなら、もう帰ったよ」
そんな。何でそないに帰るときだけアクション早いねん。いっつもだるそうにしてるくせに。ありがとう。芹沢さんにそう言い残して七組を後にする。いま。今伝えなきゃいけない。光、待って。
「雛山さん、頑張って!走れば追い付くよ!」
芹沢さんのエールが更にあたしを加速させる。伝えたい思いがあるから。あたしなりの決着を。決心を、光に届けたい。あたしには考えられへん程のスピードで靴を履き替え、再び駆け出す。
ひかる。ひかる。
あたしの答え
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