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「喋ってんのに邪魔してごめんね、雛山さん」
『い、いえ…』



芹沢さんの気持ちを知ってるだけに、何だか気まずかった。今現在のこの状況で邪魔になってんのは間違いなくあたし。ここで気の効く人なら自然とその場を離れることができるんやろうけど、おあいにく様あたしにはそんなスキルはない。あたしが場を離れようとしたところで、光が不振に思うようなことにしかならんやろう。だからこうして立ち尽くすしかでけへんかった。



「さっきの理科の板書、間に合わんかって…。財前くんのノート写さしてもらわれへんかな?」
「ああ…ええけど」
「ほんま?ありがとう!あとちょっと教えてほしいとこあんねん。教室で教えてほしいなあ」
「ん」
「ほんなら雛山さん、財前くん借りてもええかな?」



芹沢さんの眩しい笑顔が今度はあたしに向けられる。どうぞどうぞ。とあたしも真似して笑ってみるも、やっぱり不自然な笑い方しかでけへんかった。恋してんのとしてへんのではここまで違いが出るか。教室に戻ってくふたりの後ろ姿を見送って、疎外感を感じてしもたんか、何だか胸が痛くなった。



『なんや…。あたしじゃなくても優しいんやん…』



呟いてみたら、余計に苦しくなった。こんなにも光が恋しいのは、きっとあたしが光に頼りすぎてるから。なにがあたしだけのヒーローや。光を独占して、光を拘束して。あたしのしてきたことやけど、それにしても笑けてくる。勝手すぎる。光の人生も制限して、好きな人作るにもあたしがおる限り、光は恋することなんてでけへん。

それなら、やっぱりこのままなかよしこよしではおられへんやんか。

自分を嘲笑ってみる。そんなことにも今にならな気付けんなんて。ひとり誤解して、あたしだけに優しいんやて勘違いして。
誤解が解けたなら、解放してやればええやないか。あたしのことやから上手く償うことはでけへんやろうけど、きっと解決に近付くことはできる。
そうと決まれば心を殺して、覚悟決めな。大丈夫。こんな感情、いつかきっと忘れる。


戻れない夏の日

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