09
あたしは今、とてつもなく高揚している。なんたって学校一人気であろう先輩に声を掛けられたんやから。初めて交わした言葉。未だあの先輩の声が頭の中でこだましている。何よりあの甘ったるいボイス。
それにしても、ほんまかっこよかったなあー。まさかあたしみたいな奴でも話すことができるなんて。
「雛山さん」
遡ること約五分前。廊下を歩いていたあたしの名前を呼ぶ男性の声。振り返るとそこには、学校一人気であろう白石先輩が立っていた。
『は、はいっ!』
「急にごめんな。財前、どこおるか知ってるかな?」
『ひ、光ですかっ?きょ、教室にいなかったですか?』
「せやねん。今月の予定表渡したいねんけど…」
白石先輩があたしに見してくれたのはテニス部の予定表やった。光に渡すはずの予定表。部長に届けさせる光も大したもんやなあ。
『よかったら、あたしが渡しておきましょうか…?』
「ええの?」
『あ、あたし丁度光のとこ行こうと思てたとこですし』
「ごめんな。にしても財前もこんなええ感じの幼馴染みがおって幸せやな」
ありがとう、ほんならよろしく。そう言って白石先輩は去っていった。か、かっこいい…。あ、はよ光んとこ行かな。自然と足取りが軽くなる。今日は良い日やなあ。
「おい」
背後から今度は聞きなれた声がした。この機嫌悪そうな声の持ち主は間違いなく光や。
『あっ、ひかるー』
「廊下でスキップなんかしてんなや…」
『え、あたしスキップなんかしてた?…えへへー』
光の表情がひきつってく。光にさっき白石先輩から預かった用紙を渡す。なんで愛が…て言いたそうな顔する光。しゃーない、さっきの幸せなひとときを教えてやるか。
『今、白石先輩から光に渡すように頼まれてんー』
「…部長が?」
『素敵な人やね。人気あるんわかるわー。しかもなしかもな、あたし、ええ感じって褒められてん』
またデレッとしてまうあたしを持ってた教科書で殴る光。頭を叩かれ、痛っ、と声を漏らすあたしに凄い睨みをきかせてた。
「なにヘラヘラしてんねん。気持ち悪いな」
『殴ることあらへんやん!』
「はいはい。なあ愛、お世辞って知ってるか?」
『…なっ』
そんな言い方ある!?と反論しても光の機嫌は悪そうなままやった。なんやろ。あたしがヘラヘラしてんのがそんなに気に入らんのかな。光の態度にあたしまでムキになってしまう。
「また泣く」
『泣かせるからやん!』
あんな言い方することないやん。機嫌悪くたって、もちょっと優しくしてくれたってええやん。なんやかんや言って優しい光やのに、キツいだけやったら光の個性が台無しや。もう、光のあほ!
『だいたいね、光はいっつもそうやって』
「ねえ財前くん」
ふたりして振り返るとそこには光に想いを寄せる芹沢さんの姿が。邪魔してごめんねーと言って微笑んでいる彼女を見てモヤモヤした感情を抱く。なんだか、心がざわざわする。
眩しくて悲しい
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