08



「高原さん!」



放課後のひととき。家で暇をしていると、お母さんに買い物に付き合ってよと頼まれ、暇潰しに来たショッピングセンター。お母さんと別れ、ひとりでフラフラしていると背後から名前を呼ばれた。振り返ると、白石くんが手を振ってる。わあ、まさかこんなところでも会えちゃうなんて。私はなんて果報物だろうか。



『白石くんっ』
「ひとり?」
『お母さんと。今はあっちのスーパーで買い物してるから私はこの辺をブラブラしてたんだ』
「ほんなら俺はナイスタイミングで高原さんをナンパできたっちゅー訳やな」



ニヤニヤとしている白石くん。こんなときの白石くんはツッコミ待ちなんだ。それも最近覚えた。ツッコミを入れると、ナイスツッコミ!と、とびきりの笑顔を見せてくれる。この笑顔が凄く好き。

買い物が終わればお母さんから電話が掛かってくることを話すと、白石くんは側にあるカフェに入ろうと誘ってくれた。断る理由は勿論ない。嬉しさを胸に抱え、白石くんとカフェに入った。辺りは友達同士だったり恋人だったりで賑わっている。こういう雰囲気は嫌いじゃないけど、仮であろうとも恋人と来ることになるとは夢にも思っていなかった。



「知り合いでもおった?」
『あっ、ううん』
「高原さん、なんかきょろきょろしとったから」



注文した品を受け取り、席に座る。白石くんとお揃いのアイスミルクティー。中の氷をストローで突き、カランと音を鳴らした。少し多めにミルクを入れた白石くんの方が、私のよりミルク色に染まっていった。ドキドキを隠すようにミルクティーを掻き混ぜ、わざと氷の音をたてた。



『緊張、しちゃって』
「そっか」
『友達とはよく来るけど、男の子と来たことないから…。変だよね、ごめん』
「なに言うてんの。俺は高原さんのそうゆうとこ、ほんま良いと思う」



そうゆうとこってどういうとこだろう。すると白石くんが、素直に話してくれて嬉しい。と付け足してくれた。本人を目の前に、緊張するなんて言う奴いないか。なんて思っていたもんだから、私まで嬉しくなった。だけどそれ以降、何を話したらいいのか、どんな顔をしたらいいのかわからず、ストローをくわえたままゆっくりゆっくりミルクティーを飲んでいた。



「ごめん、俺も口下手で。高原さんの前やといっつもこうやな」
『えっ』
「俺かて緊張してんねん。今話したことやって家帰ったら忘れてる勢いやねんで」



大袈裟すぎでしょ。つい吹き出してしまった。白石くんはいつもこうして、私を笑顔にしてくれる。口下手なんかじゃない。わかってるけど白石くんの好意に甘えてる。不器用な私なりに考えてのことだった。

気付けばミルクティーを飲み干してしまっていた。短かったけど、凄く楽しいひとときだった。カフェを出て、何気なく携帯を見てみるとお母さんからメールが入っていた。メールを開封してみるとハートの絵文字だらけの内容に驚愕してしまう。買い物の間に彼氏とお茶なんて洒落込んでるわね。なんてダラダラした内容は流し読みして、肝心な用件を探した。

お母さんは先に帰ってるから、結衣は彼氏とゆっくり帰って来なさいね。雨が降ってきたみたいだから気をつけるのよ。
そんな内容だった



「お母さん?」
『う、うん。なんか先に帰っちゃったみたい』
「うそん。ごめん、俺のせいで」
『白石くんのせいじゃないよ。お母さん、気まぐれだから。それより雨が降ってきたみたい』



白石くんがショッピングモールの自動ドアから外を覗くと、うわ。と声をあげた。後をついて私も覗いてみると、思ったより土砂降りで私まで声をあげてしまいそうになった。白石くんと一緒にいるところを見たんだったら、一緒に車で連れて帰ってくれたらよかったじゃない。ああもう。気の遣い方がいちいち下手すぎる。



「あっちゃー。高原さん、傘もってる?」
『車で来たから…もってない』
「ほんなら買いにいこ」



ほんとお母さんの不器用な気遣いが嫌になる。けど、白石くんと一緒にいれる時間が長くなったから。そんなお母さんに少しだけ感謝。


魔女と紅茶


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