07



「高原先輩やないっすか」



振り返ると見たことない男の子が立っていた。言葉遣いから下級生だろうか。少し早く目が覚め、いつもより早く来た校舎で知らない男の子に声を掛けられる。確かに彼は私の名を呼んだ。それは空耳でもない。怒っているのか、どこか目つきも悪い気がしてきた。



『は、はい。高原は私ですが…』
「やっぱり。あーあ、コッソリ狙っとったのに残念やわ」
『…は?』
「まさか部長に先越されるなんて。まったく…」



黒髪の少年はブツブツとひとりでぼやいてるが、私には全く状況が理解できないでいる。声ですら聞いたことのないこの少年は私の知り合いではない。彼が言う部長とは誰のことなのか、回らない頭で考えてみたんだけどやっぱりわからない。



「今からでも俺に乗り換えませんか」
『だ、だからあなたは一体?』
「俺の方が結衣さんを幸せにします」
『え、え?』

「財前!なに高原さんにちょっかい出しとんねん!」



白石くんの声が聞こえたかと思うと、凄い勢いで私と少年の間に割って入ってきた白石くん。その勢いは、一体どこから現れたんだろうとまで思える程のものだった。



「ちぇ、邪魔が入ったか」
「誰が邪魔やと…。邪魔なんはどっちや!はよ教室行き!」
「部長が先行ってくださいよ」
「なんやとー!」



私の前で凄い気迫で白石くんは少年に噛み付いてる。ああ、きっと白石くんの後輩なんだ。財前って、前に白石くんが何か言ってたな。この子が財前って子なのか。ふたりのやり取りを見ていると、いろいろな謎が解けてきた。そんなことより、このふたりのやり取りが相当面白い。



「…今日のところはこれで諦めますけど、次はこうはいきませんよ」
「俺の許可なく高原さんに話し掛けるんは許さんで」



去っていく財前くんの後ろ姿を見送っていたら左斜め上から視線を感じた。白石くんが思わしくない表情をしている。意外と彼に言われたことに不快なものがあったのだろうか。私にはそんな風に感じなかったのに。



「…まさか財前と知り合いなん?」
『知らない子だよ』
「ほんなら何でそんな笑ってんの、高原さん」
『いや、仲良いなーって。なんだか可笑しくって』



ええ?と白石くんがリアクションをとる。誰がどう見ても仲の良い先輩と後輩だっていうのに、何を驚いているんだろう。俺は高原さんが心配で、なんて言ってるけど、そこがまた可笑しい。



『白石くんのこと好きなんだねえ、今の子』
「財前が?それはないねん高原さん。財前は高原さんのこと可愛い可愛い言うてて」
『そう言ってさ、白石くんに構ってもらいたいんだよ。可愛いじゃない』
「やからちゃうねん!高原さん信じてやー」



白石くんって近くで見たら、思ったより大きいんだ。また新たな発見に表情が緩んでしまう。目が合うと、ちょっとだけ胸が痛んだ。白石くんは、どないしたら信じてもらえんねやろ、と困り果てた様子。男の子同士だとわからないのかな。財前って子が好きなのは、私じゃなくて白石くん。これは間違いないのに。



『それとおはよう、白石くん』
「…あ。お、おはよ」



見つめ合ってみると、白石くんは顔が赤くなってすぐに目をそらされてしまった。あれ、顔を覗き込んでみてもすぐに隠されてしまう。照れてんのかな。



「…みっともない顔してるから見たらあかん」
『そっか』
「高原さんがこうしたくせに。薄情やなあ」



その可愛さは反則やわ。そう呟いた気がした。跳ねる鼓動を最小限に抑えながら、白石くんの後についてふたり教室へと向かった。


背後からの刺客


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