05



雨が降っていたので、駅前のアーケードに寄ることにした。どちらかともなく、暗黙の了解ともいうのか、自然と寄り道することになった。はじめてなのに、とくに何も感じない。それは気を許してるからか。それとも何とも思ってないからなのか。雨の中を歩いてるときはわからなかった。

行きたいとこある?そう言う白石くんには特にないよと返事をした。他愛もない話をしながらただただアーケードを歩いた。傘をささなくていいから楽だ。
少し歩いたところで背後から甲高い声が聞こえた。どうも私の名前を呼んでいるみたい。振り返るとクラスメイトだった。めんどくさ。そう思ったが、すぐに囲まれてしまった。



「白石くんと買い物?」
「いいなあー。結衣がほんと羨ましい!」
『あのねえ…』
「ねえねえ、どこまでしたの?」
「気になる!」



私にごまかす隙も与えず彼女たちは次々と質問を投げかけてくる。元々異性に興味がない私は、こういう話は好きじゃなかった。ここは適当に流すのが一番だ。いや、流すと言うよりダンマリをきめこんどけばきっとこっちのもの。彼女たちは満足するだろう。



「もうキスくらいはしたでしょ」
「やや、結衣は潔癖入ってるからまだだって」
「じゃあ手くらいはつないだ?」
「さすがの結衣もそのくらいは…」



やさしい気持ちを心掛けて友たちを見守る。時折、悪口が混じっているような気もしたがここは目をつむろう。

それからだった。白石くんの姿が見えないことに気が付いたのは。



『じゃ、じゃあまた明日ね』
「白石くん、帰っちゃったのかな…」
「結衣、ごめんね」
『大丈夫。あと私、潔癖じゃないから!じゃね』



白石くんが何も言わずに帰る訳ない。そう言って彼女たちと別れた。その確信とは裏腹に駆け足になってる。帰ってはいないと思うけど、どこにいるの。ごめん、白石くん。ごめんなさい。貴方は今、どんな気持ちでいるの。








「…高原さん?」



しばらく走ったところで不意に後ろから声を掛けられ、慌てて振り返る。振り返らなくても声の主はわかってるのに。白石くんの姿を眼中に収めると、酷く安心した。よかった。また会えて、本当によかった。



『今までどこに』
「高原さん、みんなに見られて恥ずかしそうやったし…。それより見て見て」



そう言って白石くんは嬉しそうにポケットから可愛いうさぎのマスコットを取り出した。私の目の前にぶらぶら垂らしてみたものの、私がきょとんとしたままだったからだんだん表情が曇ってく。もうそんな表情させたくないって、こないだ思ったところだ。何してんのよ私。



『かわいい。どしたの、この子』
「向こうのゲーセンで見付けてん。高原さん、こんなん好き?」
『うん。好き』



よかった。そう微笑んだ白石くんを見てホッとした。白いふわふわしたうさぎを白石くんから受け取る。毛並みがふわふわしてて可愛い。何より、ただただ嬉しい。ありがとうって、思わず言い忘れちゃうくらい。



「それとな高原さん、こっち」
『あっ』
「ほら、雨上がってん。さっき」



ほんとだ。さっきは白石くんを捜すのに必死で気付かなかった。思い返すと、さっきアーケードにもガラス張りの天井から日が射していた。そして今、白石くんの髪が近くでなびいている。



『まずはどこへ行こうか』



何気ない風に目を細めると、白石くんの笑顔が煌めいた。ふたりいっしょに歩きだすと、絵のように景色が過ぎていく。私と白石くん、ふたりではじめて歩く町には虹が架かっていた。


雨上がりの庭で


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