02



「ってな訳でミッション変更!これから白石くんと付き合うのよ!」
『やだ。事情説明して謝る』
「なーに言ってんの。満更でもないんでしょ?本当は」
「結衣いいなー!」



満更でもない。そう言われたらそうかもしれない。白石くんと付き合えることが嬉しい訳じゃない。あの白石くんと付き合えるんだ。ただそれだけの優越感に支配されかけていた最低な私。でも、私は白石くんのことを。










「どしたん?考えごと?」



白石くんに顔を覗き込まれてハッと我に返る。今朝のこと思い出してたんだ。そして今は白石くんと一緒に下校中。正直、何を話していいのかわかんない。別に、気にしないで。適当に返事すると白石くんは優しく笑った。
そしてまた沈黙が流れる。その沈黙は私にとって気まずいものでしかなかった。



「高原さん」
『なっ、なに?』



先に沈黙を破ったのは白石くんだった。驚く私を目を丸くして見ている。急に大きな声を出して、驚かせてしまったのは私の方だ。



『ご、ごめん』
「ううん。高原さん家、何丁目?」
『四丁目』



白石くんとは別の方向みたいだ。難しい顔をしてたからすぐにわかった。それならここで。じゃあね。そう言おうかと思ったけど、思考回路がその発言を阻止した。
まだ会話という会話を、なんにもしてないじゃない。照れていたということにしたとしても、あまりにも酷すぎる。



「えっ…と」
『白石くんの好きなものは、なんですか』
「…え?」
『なんでもいい。思い付いたもの、教えてくれないかな』



さっきより困った顔をした白石くんを余所に、私の視線は白石くんを貫く。まるで決闘の申し出をしてるような光景だ。
でも。白石くんのことを知らなきゃ始まらない。いくらイケメンだからって、人気あるからって、よく知らない人と付き合うなんて気持ち悪すぎる。知らなくても付き合ってみるか、と思わせる白石くんはやっぱりイケメンだからだろうか。



「…テニス。やっぱ俺にはテニスしかないわ」
『そっか』
「高原さんは?陸上?」



思い付かなかったのと、白石くんが私の所属していた部を知っていたことによる驚きで思わず、うん。と答えてしまった。嘘付いてしまったような気持ちになったけど、それを訂正する余裕なんてなかった。

後には退けない。白石くんの心を弄んでいるにも関わらず、私の心には闘争心に似た何かを感じていた。


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