07


「そーいや、昨日大丈夫やった?」



昨日の曇天とはうってかわって、今日の空は青く青く澄んでいた。一限目の終わりを告げる委員長の号令で、クラスの大半が席を立ち、教室が賑やかになってきた頃、立ち上がった白石くんが声を掛けてきた。彼の言う大丈夫とは、おそらく昨日の雨の中の出来事だろう。大丈夫という台詞は私が白石くんに聞きたかった言葉なのに。



『うん、帰ってすぐお風呂入ったし』
「そっか。風邪引かんかなって心配したで。よかった」



こういう気を遣えるのが、白石くんの人気の秘訣でもあるだろう。こんな私にだって白石くんは優しく声を掛けてくれる。私には出来ないことを更々とやってのける彼は、眩しすぎるくらいだ。白石くんこそ、風邪を引かなくてよかった。心の中でそう思うと白石くんに伝わったのか、私に向かって微笑み掛けてくれていた。



「西岡さんって、なんか不思議やわ」
『…どうして』
「なんか惹き付けられてまう。魅力やな、西岡さんの」



乾いた風が窓際の私たちの席を包み込む。そんなこと、白石くんに言われたくない。そう思ったけど、言葉に出来なかった。私の冷めた気持ちがそうさせたのかはわからない。白石くんといると、不思議な気持ちになる。この込み上げてくる気持ちの正体に、気付かぬ振りをするのはもう限界に等しい。ああ、もう。



『あっ、あの』
「ん?」
『白石くん、好きな人、いる…?』



違うよって聞きたかった。あの人のことなんて、好きやないよって。少しでもいいから、私を見てほしかった。やっぱり風邪をひいてしまったのかもしれない。今日の私は変だ。体が熱い。顔も、きっと真っ赤になっているに違いない。



「どしたん、西岡さんがそんなん聞くなんて」
『っ…』



私らしくない。きっと熱があるんだ。だから体も顔もこんなに熱いんだ。ごめんと呟いて席を立つ。自分の気持ちが憎らしい。欲張りだ、私は。



「…おらん、よ」



叶わない恋をしているのは私も同じ。でも、私は自分の気持ちを否定したくなくて。自分の気持ちを押し込んでいる白石くんを見ているのは辛かった。
席を後にし、教室を出ようとするも、切なさで胸が締め付けられる。彼はどんな表情をしているんだろう。きっと白石くんも、切ない気持ちでいるに違いない。
一体いつから、白石くんは先生のことが好きなんだろう。そして一体いつから、私は白石くんのことがこんなに好きなんだろう。考えれば考える程、胸が苦しくなった。

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