06


雨音を聴きながら目を閉じる。こうしてると妙に落ち着くのはどうしてだろう。辺りの急ぐ足音ですら心地よく感じる。商店街の端にある、定休日の本屋の軒下でそんなことを考えていた。白石くんも、突然降りだした雨に濡れているのだろうか。そっと目を開くと、遠くから走ってくる影が見えた。白石くんだ。目はあまり良くないんだけど、不思議と解った。
名前を呼ばれたので、手を振ってみる。そうすると白石くんは私の隣までやって来た。



「えらい雨やなー」



そうだね。そう呟くと、白石くんは私に笑ってみせた。上手く話せたら。そう思わなくなったのは私がこの性格を認められるようになったからか、それとも諦めがついたからか。
どのくらい時間がたっただろう。互いに目を合わせることなく、白石くんを隣に感じながらただただ降りしきる雨を眺めていた。



『あの人のこと』



ん?と綺麗な顔立ちのままこちらを向く白石くんと目を合わせると、それ以上言葉が出なかった。白石くんの気持ちを聞いたからって、今の私には何の後押しすらしてあげられない。無意味な事はしないでおこう。それに、今は白石くんの心に触れない方がいい。そう思った。
なんでもないと告げると、二度目の沈黙が訪れる。白石くんの笑顔を見ると息が苦しくなる。作り笑いなのか、彼は辛い思いをしているのか。彼の真意は、私には解らないから。



『白石くん』
「ん…?」
『無理、しないで』



白石くんの前をすり抜けると、激しい雨がまた私の肩を叩く。走り出すと、体が一気に熱くなった。一瞬でも私の気持ちを伝えてみようか、そう思ったことが恥ずかしい。白石くんの気を紛らわそうとしてか、白石くんの気を引きたかったのかさえ解らない。ただ解るのは、私にも新しい気持ちが生まれているのだということ。

[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -