05


五月も半ばに差し掛かり、この席で白石くんの後ろ姿を眺めていられるのもあと半月となっていた。それもあるんだけど、あれから胸が締め付けられていて仕方ない。白石くんのあの表情。先生を見つめる視線。
白石くんは、先生に恋をしている。あれから一週間、白石くんを見てきて、疑惑が確信へと変わった。あの日、一緒に帰ったときは先生の話題は一切でなかったけど、どこか思い詰めているようで。どこか上の空な白石くんを眺めながら帰ったのだ。



「おはよう、西岡さん。早いなあ」
『おはよ。今日は朝練なかったんだ』



白石くんの好きな人を知ってから、何だか今までに比べて話しやすくなった感じがする。私だって白石くんに想われたいとは思うけど、何だかホッとしたのだ。彼だって、片想いするんだって。手の届かない存在のようで、彼だって普通に人を好きになったりするんだ。分かりきっていたことなのに、今更そのことに気が付いた。



「なんか西岡さんと話してると」
『なに?』
「ホッと…するような」



他の子とは違うような感じ。そう残して白石くんはまたいつもの教卓の前に移動して友達と話し出した。彼のひとつひとつの行動が、目についてく。先生に話し掛けられたいが為に教卓の前で話しているのだろうか。構ってほしいが為に、からかったりしてるのだろうか。

そういえば、一年の時から。

当時、新任だった担任の手伝いをよくしていた。先生の授業中だって、積極的に発言したりして良い雰囲気を創り出していたのも白石くんだった。



『どんな気持ちで…』



ぽつり呟いてみても、答えは見付からなかった。考え出すと、私の知ってる白石くんはいつだって先生のことを想っていた気さえするのだ。
教室に入ってきた先生と楽しそうに話している白石くん。でもその表情は、楽しさだけではなく、他にも色々複雑気持ちを含んでいる。
どんなに考えたって人の気持ちなんて分かりやしない。モヤモヤを紛らわす為に、お気に入りの小説を開く。心を落ち着かせて静かに深呼吸すると、木々の香りが鼻腔に立ち込めた。



「あ、西岡さん。本読んでる」



何て本?前の席に戻ってくるなり笑顔を向けてくれる。何だか堪らない気持ちになって、白石くんの顔が真っ直ぐ見れない。覚えの無い傷が、ズキンと痛んだ。

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