03


「この字、西岡さんのでしょ」



担任から職員室に呼び出されたので、緊張しながらも担任のデスクまでいくと同時に思いがけない言葉が掛けられる。
担任の手には家庭訪問の用紙。親が忙しいからと、代わりに昨晩私が親の希望する日付と時間を書き込んだのだ。



『はい、そうです…』
「一枚だけ名前がなくってね、一応確認したくて。わざわざ呼び出しちゃってごめんね」



ほんとだ。肝心な名前がない。すみませんと返事をすると、先生は笑って、大丈夫と言って私の提出した用紙に西岡舞衣と名前を書き込んだ。いつもは居心地良いと言えない職員室も先生のお陰か、なんだか和ましく感じた。



「それにしても、私の字ってわかったんですか?凄いですね」
『そりゃあ二年も見てきたらね。最後の一年も宜しくです』
「先生、それ私の台詞だよ」



本当に良い先生だと思う。失礼しました、そう呟いて職員室を後にした。担任の先生も最高だし、白石くんとも同じクラスだし、三年間ツイてるんだけどなあ。もう少しの運がないのか、白石くんといまいち仲良くなれないでいる。愛想の良い白石くんと、愛想の無い私。仲良くなれるわけないか。何度そう自分に言い聞かせるも、どこかで納得していない自分がいる。



「あれ、西岡さん」



教室から職員室まではそんなに離れちゃいない。そんな長くない距離の中で白石くんとすれ違う。これまでだったら目も合わせることもなくすれ違っていただろう。こうして話し掛けてもらえるのも、席が近いお陰だ。本当に嬉しいのに、顔に出せない自分を少し憎く思った。



「職員室の帰り?」
『うん』
「俺は今からやねん」



そう言って白石くんは手に持っている古典の教科書を顔の横まで上げた。その笑顔はとても眩しくて、無表情な私ですら目を見開いてしまうほどのものだった。



「俺も担任に会いにー」
『そっか』
「ほんま良い担任に三年間当たったよなあ、俺と西岡さん」



そうだね。白石くんと共感できることがこんなにも嬉しいことだなんて。表情には出せないけど、心の中で思い切り頷いておいた。何がどうあれ、白石くんと共感したのだ。私にとっては凄い収穫だ。少しでも白石くんのことを知れたような気もして、浮き立つ気持ちを隠しながら教室へと向かった。廊下から見える外の木々が、風に吹かれてキラキラしていた。

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