09


大丈夫、と言ったものの次の日も、その次の日も寝込んでしまった。白石くんに涙を見られたままだったから、学校に行けなくて逆に良かったかもしれない。 西岡さんらしくないって言われるのも堪えるだろうし。せっかく格好いいって言ってもらえたんだ、そのイメージを守ってみるのもいいかとボーッとする頭で思っていた。
明日は登校できそうなのに、気分だけが回復しない。今ボーッとしてるのも、きっと寝過ぎているからだ。弱虫だな、私。全然格好よくなんかない。



『外の空気でも吸いに行こう』



このままじゃ、ズル休みしてしまいそう。散歩でもして、気分を落ち着かせて明日に備えようじゃないか。有り難いことにまだ時刻は20時を過ぎたところだ。一時間くらい夜風に当たるのも良いだろう。
そうと決まれば善は急げ。シャツを着替え、少しだけ髪を整えて足早に家を出る。心配する母の声に適当に返事もした。街灯に照らされながらゆっくりと歩く。さっきまでの不安が嘘みたいだ。憎かった欲張りな自分も受け入れられそうな気までしてきた。

ふと携帯が振動しているのに気が付いた。画面には見慣れない十一桁の番号。相手が誰かわからないまま、取り敢えず電話に出てみる。



「西岡さん?」
『白石、くん?』
「クラスの子に西岡さんの電話番号教えてもらってん。勝手にごめん。体調はどう?」



緊張しながらも平気だと伝えると白石くんの声が少し明るくなった気がした。散歩しているくらいだと言い足すと、白石くんも今から出てくると言った。そこからは畳み掛けるように今いる場所を聞かれ、あっという間に電話を切られてしまった。
一息ついて空を見上げる。少しでも心が落ち着くかと思ったが、大して落ち着かなかった。五分も経つか経たないかくらいで、白石くんは私の前に現れた。



「こんばんは、西岡さん」
『…こ、こんばんは』



何事もなかったかのように、その場で少し立ち話をした。家に帰ってご飯を食べ終え、さっきお風呂から上がったところだということ。私は熱が下がったから、外の空気を吸いに来た。明日は学校に行けそうだと話した。



「元気になったみたいでよかった」
『…ありがとう』
「そんでな、西岡さんに聞いてほしい話があんねん」



先生に、告白しようと思う。
白石くんは真っ直ぐな瞳で私にそう言った。その瞳にはもう迷いも未練もなくて、一瞬で惹き付けられてしまう。白石くんが決めた覚悟が痛いほど私の胸に突き刺さる。思わず切なくなってしまった。私はまだ、気持ちの整理がつかないまま。



「西岡さんと話してさ、逃げてる方がよっぽど格好悪いなーって思って」
『そっか…』
「結果は目に見えてるけどさ、賛成してくれるやんな?」
『もちろん』
「これまでは叶わへん恋してんの認めたくなかった。そんな考えを変えることが出来たんは西岡さんのお陰や、ありがとう」



白石くんの笑顔には、もう迷いなんてなかった。眩しくて、羨ましくて、なんだか苦しくなった。
もう何度目だろうか、白石くんのようになりたいと思ったのは。私には白石くんのような優しさも、勇気もない。全然違うのに、どうしてこんなにも白石くんに憧れてしまうのか。



『ねえ。今からひとりごと言うから聞き流してね』
「え?」
『私ね、ずっと白石くんのこと好きだったの』



こんな気持ちの伝え方、卑怯だってわかってる。でも白石くんの決意を聞いたら、隠してる私が一番狡いと思った。私の告白で白石くんが少しでも元気になるんじゃないかって、心のどこかで期待しちゃってたりして。



『だから私、苦しそうな白石くんを見てられなかった。両想いになるだけが恋じゃないって、白石くんのお陰で知ることができたよ』
「あ…」
『だからね、返事はいらない』



困らせたい訳じゃない。でも、どうして気持ちを伝えてしまったのか、自分でも理解できなかった。私は白石くんに比べたらまだまだ弱くて卑怯だけど、少しだけ心の荷がおりた気がした。
白石くんは俯いて何も言わなかった。静かに夜は更けていく。目を閉じて、風を全身で感じた。
彼にも決戦の時は近付いている。少しでも悔いが残らないように。私にはそう祈るしかできなかった。
[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -