俺の傷心を知らん南先輩。先輩は俺を見掛けると変わらず笑顔で声を掛けてくれるやろう。有り難いような、余計に傷付くような。俺は俺が思ったより南先輩のこと好きやったみたいで。先輩が笑う度に傷が深くなってくように思えた。大好きやった南先輩の笑顔。それが見るだけで息が詰まるほどになるなんて。辛かった。



『財前くん!』



こないだまでは南先輩の姿を見られただけでもあんなに嬉しかったってゆうのに。今は胸が痛む。こんなんあんまりや。どないするんが正しいんかすらわからへん。



『昨日はごめんね。私ばっかり喋っちゃって』
「わざわざそんなん言いに2年まで来たんすか。別に気にしてませんけど」
『う、うん。あのね、昨日のこと…』



口止めに来たんやろう。俺が白石部長に言うとでも思とんのやろか。そんなんしても虚しさしか残らへん。そんなこと南先輩は知るよしもなく俺に頼みに来たんや。



「誰にも言いませんよ」
『本当?』
「言ったところで俺が得する訳ないですし」



それだけ告げて教室に入ろうとすると南先輩に呼び止められた。振り返ると先輩はきょとんとしとって、俺は南先輩が喋ってくれんのを待った。



『あ、あの…なんだか今日…』
「なんですか」
『つれない、ね』



いつもこんなんっすわ。と言葉を残すと、そっか。と南先輩は呟いた。これ以上、南先輩の悲しそうな顔みてられんくて、先輩を廊下に残して教室に戻る。

俺が南先輩の笑顔を奪ったんかな。でも、先輩自身は俺に笑いかけようが笑いかけまいが関係ない話なんや。やからそんなに気にすることやない。自分にそう言い聞かした。



俺が守りたかったもの。南先輩の笑顔やったはずやのに。背を向けて逃げた。失恋した悲しみのあまり、みるからに素っ気なくあたってみっともない男やと思われるような行動した。
南先輩の笑顔はいつもそばにあった。それが先輩たちの引退によって遠くなってった。避けようのないことやけど、俺には大打撃やったってことや。


守りたいって思てたのに。ずっとそばで南先輩の笑顔を見てたいってあんなに思てたのに。