『財前…くん?』 擦りむいた傷を水道で洗ってたら背後から声がした。振り返ると1こ上のマネージャーが恐る恐る俺を覗き込んでた。なんですか。そう言うのでさえ面倒やった。はい。とだけ答えて傷口に視線を戻す。うかっとしてたらソックスまで濡れてまう 。水道の蛇口をひねると水が止まる。その音を聞いてマネージャーは俺んとこに駆け寄ってきた。 『はい。タオル』 「…どうも」 『拭いたら消毒するから』 「そこまでしてもらわんでも大丈夫っす」 断ったのにも関わらずマネージャーは俺の足元にしゃがみ込んだ。消毒液を染み込ませたガーゼが傷口に触れたのがわかる。 余計なことしてくれるわ。 着替えて早く帰りたいのにこの時間がもったいない。絆創膏を貼って完成。これでマネージャーの自己満からやっと解放される。あとは礼さえゆっといたら満足するやろ。 「どうも」 『お礼はいらない』 「マネージャーとして当たり前のことやから…とか言うんすか」 『そう』 「媚びるんなら他あたってください」 ここまで言ったら普通は諦めると思った。もう俺に気安く話し掛けてくることもなくなるんちゃうかとまで思た。やのに。やのにマネージャーは笑った。腹抱えて笑ってる姿見てると苛立ちまで覚えた。 「なんなんすか」 『ごめんごめん。噂通りだね、財前くん』 「はぁ」 『面白いね。冷たくされるのはわかってたけど。まさかここまで冷たくされるとは思ってなかったよ』 馬鹿にされっぱなしで全く腑に落ちひん。まして女にこんな笑われるなんか腹立ってしゃーない。それを察知したんかマネージャーはごめん。ともう一度謝った。 『媚びたら嫌われちゃうからさ。だったら私を召し使いにしてくれて構わないから』 「そんなん自分でゆうて悲しないんすか」 『全然。財前くんたちが全国に行ける。私がほんの少しでもお役に立てるなら』 「そんなんやったらマネージャーは報われへんやん」 『全国に行ってくれるなら私は何だってする。そのかわり、大会中は私にも応援させてほしい』 それが私の夢なの。そうマネージャーが言った。あんまり優しく笑うから目が離せんかった。 きっとそれからや。南先輩を目で追うようになったんは。 次の日からは自然と話すようになって、冗談を言い合うようにもなっていった。いつ見ても南先輩は笑ってた。南先輩の笑顔に何度助けられたことか。逃げ出したくなることもあった。でもその度に、南先輩に救われてた。 俺はずっと南先輩が好きで。きっと南先輩はずっと白石部長が好きで。俺と先輩の想いは交差することはない。この先も、きっと。 |