柄にもなく週間貸出ランキング1位の恋愛小説を読んでみる。暇な図書当番。あんまり好きやないこの暇な時間。ぼーっとしとったら、いっつもいつの間にか南先輩のこと考えてしもてる。
…一緒に弁当食べたときから会ってへんなあ。脳裏によぎったけど、すぐ小説に集中する。認めたくなかった。俺ん中はいつしか南先輩でいっぱいになってて、俺の時間は南先輩を想うことで過ぎてく。こんな一方通行なことが疲れる。



「貸し出しお願いします」



金曜の放課後っちゅうんもあって利用者も少ない図書室。図書室におった最後の女子生徒が借りる本をやっと決めたらしい。カウンターに置かれた本と貸出カード。無言で処理して女子生徒に手渡す。ありがとうございます。と頭を下げて図書室を出てった。
これでひとりになった。軽く体を伸ばして固まった筋をほぐす。ついカウンターに顔を伏せる。





意識が飛んでたことに気ぃ付いたんは次に目を開いたとき。ぼやける世界。重い瞼を開き、ちょっとだけ体を起こす。背中に何か掛かってる。



『おはよう。図書委員さん』



カウンターの向かい側の席に南先輩が座ってる。ぼやけた視界のなか、先輩だけがはっきり見える。一瞬にして醒める視界。背中に掛かってたブランケットが落ちる。バサリと俺の足元でブランケットが音をたてる。その音のせいでまた南先輩と目が合う。



『こら。風邪ひかないようにとせっかく掛けてあげたのに』
「あ…すんません」
『冗談冗談。ねぇ』
「ん?」
『財前くんが図書当番終わるまで…待ってていい?一緒に帰りたいな』



躍る心をなんとか抑えてオッケーっすと即答する。勉強しながら静かに待ってるから。と南先輩は微笑んでまたノートに目線を落とす。
綺麗な南先輩の横顔につい見とれてまう。真剣な瞳に釘付けになってしもててハッと時計を見ると、図書当番が終わるまであと35分もある現実を目の当たりにする。時計の秒針が動く音が体に響く。早く。早く時間が過ぎたらいい。やっぱ落ち着かん心を抱えて、時計とひたすらにらめっこしながら時が過ぎるんを、夕焼け色に染められながらひたすら待った。