10月。季節は秋。
肌寒い日が続く中、毎日孤独を感じてた。放課後になると人の笑い声がとくに耳につく。ため息をひとつついて重い体を動かした。部活が始まってまえばそんなことあらへんのに。



『財前くんっ』



教室を出たところで背後から聞き慣れた声がした。振り返ると南先輩がこっちに向かって走ってきてた。



「南先輩」



高鳴る鼓動を抑えて、あたかも冷静に声を掛ける。一週間前にも会ってるんやけど久しぶりに会った気がした。

南先輩はテニス部のマネージャー。正確にはマネージャーやった。っちゅうんが正しい。3年やから全国大会のあと引退してしもた。毎日会ってたのに、今では姿を見るのもやっとって感じ。


『今から部活?』
「はい」
『それは楽しみだね!今日もテニス日和だもんね』


テニス日和、か。現役の時から南先輩がよく言ってた言葉。たった数ヶ月前のことやのに何年も前のことみたいや。


「先輩は?」
『今日は図書館でお勉強!化学の小テストの出来が思ったより悪くて…』
「さっすが南先輩。思たより点数悪いとかさすがっすわ」
『何を言うか!だからね、白石くんと忍足くんが教えてくれるの!』



「南ちゃーん。おまたせー」





俺の向かい側。南先輩の後ろから白石部長が現れた。部長の横には謙也さんもおる。あ、ふたりとも南先輩と同じクラスか。いいな。

はーい!と元気に返事して再び俺と向き合った南先輩。





『じゃあね財前くん。部活がんばるんだぞ!』





部長と謙也さんの方にパタパタ走ってく南先輩の後ろ姿を見送った。三人の姿が見えんくなるまでこの場に立ちすくむ俺は、端から見たら情けない奴に見えるんやろか。でも今はそんなんどうでもよかった。



数ヶ月前まで、俺はあの中におったのに。
ちょっと前まで、南先輩の笑顔は近くにあったのに。

時間を、季節が過ぎてくんを恨むしかできんかった。