南先輩が照れ臭そうに体を離したあとも先輩の体温がまだ俺の体に残ってた。思う存分泣けたんやろか。南先輩の目も赤くなってる。ふたりとも真っ赤な目で見つめ合ってみると無性に恥ずかしくなってつい目をそらしてしもた。先輩はというもの、クスクス笑ってた。





それから先輩に言われて部室に行くことになった 。なんしか部員が集まってるとのこと。どーせ茶化される。あんまり乗り気やないけど、南先輩が言うもんやからしぶしぶってとこ。



『早く早く!』
「あぁ…はいはい」



差し出された南先輩の手。そんな走ったらこけんで。そんなん言うたらまた意地悪や言われそうやからやめた。俺の前を走る先輩の手を握ると、やっぱドキドキした。



「…南先輩」
『なに?』
「いつから俺のこと、好きやったんですか」



ふいに頭をよぎった疑問を南先輩に投げかけてみたら、先輩は走るスピードを落としながら考えてくれてるみたいやった。いつからやろか。返答を待ってる俺がなんか緊張してきた。



『そうだね…』
「はい」

『…わすれちゃった!』



校舎の角を曲がったところで部室が見えた。もう部室の前で待ってる先輩たち。南先輩といいこの人らといい一体なんなん。



「遅いでふたりとも!写真撮んでー!」
『ごめんなさーい!財前部長が遅くて!』
「はぁ?南先輩が走るん遅いからでしょ」



思た通り。痴話喧嘩やって囃し立てられた。でも予想と違うかったんは思たより嫌じゃなかったってこと。今日で先輩たちとはお別れやって思ってた。でも、それは一生のお別れやなくて。いつだってこの先輩らの笑顔が見れるんやって、そう思った。南先輩においては、これからのほうが一緒におることができる。



「財前部長!南先輩!いくでー。笑ってやー」



白石部長が笑顔でデジカメを向ける。三脚に固定されたデジカメ。部長がシャッターを押すと同時に走り出した。セルフタイマーの設定秒数はわからへんけどきっと白石部長なら楽勝で間に合う。



「ほんなら俺も南ちゃんの横とっぴ!」
「白石部長!ほんまうっとーしいっすわ」
『まあまあ。そろそろじゃない?』



隣で南先輩が笑ってる。でも負けんくらいみんなも笑ってた。ピピッとシャッターがきられた音がした。この写真を現像するんは誰かわからへんけど、きっと俺の手元にもくるやろ。



時が経っても、先輩らと過ごした時間は大切な時間。写真立ての中でみんな笑いつづけてくことやろう。





『財前部長』
「からかっとんすか」
『うふふ。大好き』



頬に南先輩の唇が触れる。同時に周囲が沸き上がる。やられた。そう思たときにはもう遅く、俺は赤くなった謙也さんに捕まってた。やるやん!って俺に笑いかけてきた謙也さん。変にテンションあがってて気持ち悪かった。



「謙也。主役ふたりはもう帰らしたろ」
「せやな。ほんなら財前、ちゃんと南ちゃん送ったりや」



いつの間にか握られた手。隣で南先輩がくすぐったそうに笑ってた。なんか俺までくすぐったくなった。
白石部長らに別れを告げて、南先輩とふたり背を向けた。背後からみんなの声がする。謙也さんなんか泣いとんちゃうか。俺が見送らなあかんのに。ほんま先輩らおもろい。





『どうしたの?』
「…なんもないです」



南先輩の手を強く握りかえした。これからは先輩と一緒におれる。そんな未来のイメージを頭に焼き付けて学校の門を出た。

南先輩の目から涙がまたこぼれる。でもさっきと違うのは笑ってるっちゅーこと。南先輩の3年間の思い出が詰まった学校。そんな学校とお別れなんや。涙溢れて当たり前やんな。



「これからは。…俺がおりますから」
『…うん』
「高校で待っててください」








南先輩が笑う。負けずに俺も笑ってみたけど、やっぱ南先輩のような笑いかたはできんくて。なんか恥ずかしくなった。思わず顔を伏せると、笑って笑って!って南先輩が言った。



「…ほんま、先輩には敵いませんわ」
『財前部長に言われたくないっ』





俺と南先輩の恋はここからはじまる。

まだ少しひんやりしてる風にあたり、ひとり密かに春を感じた。







先輩と部長


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